第1回
インプラント
スプリットタン
サスペンション
トレパネーション
後編
by Mitutika Fukuda
Photo
by Keroppy Maeda
2011年3月19日
Profile
ケロッピー前田(まえだりょういち)
1965年生まれ。フリーランスのライター/フォトグラファー。“身体改造ジャーナリスト”とも呼ばれる。千葉大学工学部卒。白夜書房(コアマガジン)勤務を経て独立。1990年代より『BURST』誌(コアマガジン)にてタトゥー、ピアッシング、身体改造、フェティッシュの最前線を国内外で取材。現在は『TATTOO BURST』『BUBKA』(ともにコアマガジン)などで活躍中。著書に『SCAR FACTORY』(英クリエイションブック)、訳書に『モドゥコンブック日本語版』(フューチャーワークス)など。
各界の独走者たちを集め、昨年から東京・大久保の「ネイキッドロフト」で夜な夜な開催している『Modern Freaks Live 〜進捗ナイト』。常に剛の者揃いの出演陣の中にあっても、群を抜いた存在感を自ら発揮し、いまやイベントの必修科目と化しているケロッピー前田の身体改造コーナー。前回に引き続き、今回は皆さんお待ちかねの頭部穿孔手術=トレパネーションの最前線をお届けします。
左から柴田、飛び込み進捗報告のアル中患者T、前田、宍戸、釣崎、福田。
人類最古の外科手術!?
脳内血流量を増やせ。
引き続き2010年11月12日深夜3時過ぎのネイキッドロフト。
ステージにはケロッピー前田氏の他に司会の筆者を始め、死体写真家の釣崎清隆氏、映画監督の柴田剛氏、怪談作家の宍戸レイ嬢。いよいよ本題に移ってゆくケロッピー前田の身体改造講義。
ケロッピー前田(以下K) もうひとつ、僕がいま取材してるものに、「トレパネーション」があります。漫画家・山本英夫の『ホムンクルス』を持ってきたんですけど、これはトレパネーションをテーマにしている作品です。トレパネーションというのは脳みそを覆う硬膜には傷をつけることなく、頭蓋骨にだけ穴を開けるというもので、脳内の気圧を下げれば脳内血流量が上げることで意識の覚醒が起こるのではないかといわれています。こういう行為はもうメディカルレベルの施術なんですけどね。じゃあ、そのドキュメンタリー映画を持ってきたので、観てみましょう。
映画『A HOLE IN THE HEAD』を上映。以降、しばらくこの映像を観ながら話を進めることに。
K 僕は山本さんの前作『殺し屋一(イチ)』の時から情報提供者として協力してたんですけど、『ホムンクルス』も僕が最初にトレパネーションの資料を作ってたんです。実は連載の方に僕をモデルにしたキャラクターも出てきます(笑)。
(前田氏の持ってきた『ビックコミックスピリッツ』を出演者で見る)
柴田剛(以下S) これ前田さん?
福田光睦(以下F) これは前田さんでしょ(笑)。
K 終盤、僕がモデルになった人が、主人公の名越にホムンクルスを見られるってシーンもあります。詳しくは作品の方で読んでみてください。で、いま、後ろで流れている映像は1998年にケヴィン・ソリング監督が撮った『A HOLE IN THE HEAD』というトレパネーションのドキュメンタリー映画です。僕はいま監督と日本での上映交渉をしていて、今年の夏に公開したいと考えています。
包帯で頭を覆った女性が何かを額に突き刺し血だらけになってる映像。会場全体が驚嘆。
K これは1960年代にバート・フーゲスっていう、当時オランダで医学生だった人が、LSDの絶頂状態をどうすれば日常に持ち込めるかっていう研究をして、その結論が「頭に穴を開けると意識が覚醒して永続に絶頂状態を得る」ということだったんです。『ブレイン・ブラッド・ボリューム(脳内血流量増大説)』っていう仮説を立てて、その立証のために1965年に自ら穴を開けてしまうんですが、そのせいで彼は医師の資格試験を拒否されて、医者にはなれなかったんです。
F それは穴を開けたから?
K そうですね。海外でトレパネーションが注目されたのは、ジョン・レノンがバート・フーゲスに会いに行ったっていう一件があるんですけど、その時はジョンが「トレパネーションをしてくれ」と言いにいったというのです。そのくだりはこの映画にも出てくるんですが。
S それはオノ・ヨーコと結婚している時ですか?
K そう、ちょうどハネムーンの途中で行ったらしいです。ちょっと解説すると、頭蓋骨に穴を開ける手術は人類最古の外科手術と言われてまして、この映画の中では4000年前から行なわれていたとしています。いまの調査だと、1万年くらい前から開けられていたとも言われていますね。

S それはどういう理由でですか?
K それがわからないっていうところに、トレパネーションが現代に復活する理由があって、古代人が開けていたっていうのも、何かそれが覚醒的な役割があったんじゃないかという。
S それは中沢新一の『アースダイバー』みたいに記憶が残ってるっていうことでしょ? 《縦の記憶》っていう。
S そういういろんな説明の仕方はありなんですけどね(笑)。
F トレパネーションの痕跡が状況として残っているわけだから、そこから考えてると……。
K そう、実際に穴の空いた頭蓋骨が世界各地で発見されてるっていう事実があって、結局、なぜ穴を開けたのかということについては結論が出ていないんです。生きてる状態で穴を開けると、頭蓋骨っていうのは穴を塞ごうとするんです。だから、発掘された骨でも、骨の状態を調べて、骨の成長した痕跡があれば、これは生きている間に開けたか、開けてから何年生きていたかっていうのがわかるんです。それは科学的に立証されてて。
F へえ……。
K いろんなデータがあるけど、現代では病気の治療のために病院で行なわれていて……。
宍戸レイ(以下R) ロボトミー手術とは違うんですか?
K ロボトミーは脳みその一部を切除するもの、トレパネーションというのは脳みそを覆う硬膜には触らない。頭蓋骨という脳の入れ物に穴を開けることによって圧力を外に逃がすだけ。
R あぁ……。
K このドキュメンタリー映画には、古い映像が使われてるんですけど、アフリカで、頭に穴を開けるという行為が風習として行なわれていたっていう映像。シャーマンが出てきて……。
S 武器を研ぎ澄ましてる……(笑)。
K いや、道具です(笑)。この部族に関しては精神病、たぶん鬱病みたいなものの治療だったかな。
F えぇ、この部族って鬱病があるんですか!? この前、養老孟司が「農村に鬱病はない」って言ってたけど、これは完全に農村ですよ!
K いろいろあるんですよ。
釣崎清隆(以下T) アハハハ!
F 釣さん笑いすぎですよ(笑)。
K これいま、頭皮を剥がしてるところ。
F うわぁ、マジで!?
粗い、いかにも古そうな映像でアフリカ原住民の頭部切開シーンが展開! 場内がどよめく。
K こういうことが世界各地で行なわれてきたっていう証拠。あと、道具もどんどん出土してるので、人類がトレパネーションを行なってきたっていうのはもうわかってるんですよ。
S やっぱりアースダイバーみたいに《縦の記憶》がそうさせてるんだ。
K そこに集約しちゃうと狭くなっちゃうよ。とにかく、こういうことがあって、1960年代に、バート・フーゲスっていう人が『ブレイン・ブラッド・ボリューム』っていう理論を打ち立てて、一回盛り上がるんですよ。
さらに続く一見粗野なトレパネーション映像に笑いが止まらない釣崎氏。
F だから釣さん笑いすぎです(笑)。
K 現代のトレパネーションは1960年代に始まって、それが1970年代のイギリスに飛び火して、アマンダ・フィールディングなど、追従する実践者が出ているんですよ。
F えっ、術後は葉っぱ?
K バナナの葉で巻くっていう説明が出ています。
一同(笑)
K ちょうど1年前、『ビックコミックスピリッツ』で記事を書かせてもらったんですが、人類史上で行なわれていたというのはわかっていて、それをバート・フーゲスが60年代のカウンターカルチャーの時代に復活させて、その次にアマンダ・フィールディングっていうセルフで頭に穴を開けた人がいるんですけど、今は大学教授と結婚してて、トレパネーションの普及活動をしています。彼女は選挙に2回出てて、その時の公約が「イギリスの全国民にトレパネーションをする」っていうもの。
S 高知県がマリファナの栽培を認めるっていうような、運動系の動きですね。
K ああ、そうかもしれない。それが1970年代で、彼女は自分がトレパネーションするところを映画化したりしてけっこう過激にやってたんで、それが社会的に問題になって、それもこのドキュメンタリーに入ってます。アマンダが急進的な活動家だったので、イギリスのメディアに攻撃されたんですけど。
セルフ施術直後のアマンダ・フィールディング。見るからに覚醒している。
本日の本題。
頭部穿孔への恍惚と不安。
S たとえば、僕が医者に行って「穴を開けてもらいたい」って言ったらできるんですか?
K 治療目的でない施術はできないです。とにかく、病気の治療では、日本の病院でもトレパネーションはやっていて、だいたい脳出血や脳腫瘍、脳梗塞の時に使用されています。頭の中で血が凝固してしまっている時に、頭蓋骨に穴を開けることによってそれを治せることっていうのは非常に多いんですよ。ただ、科学的にわからないのは、「血流量が上がったら覚醒するのか」ってこと。で、普通に病院に行ったらしてくれないんですけど、ITAG(International Trepanation Advocacy Group)は2004年まででしたけど、メキシコにトレパネーションをしてくれる病院を見つけていて、その時は、左の側頭部に直径15ミリの穴を開けていました。
F これはイメージなんですが、おでこの上、中央に開けるっていうのはやっぱり危ないんですか?
K 頭のド真ん中っていうのは、頭蓋骨の縫合されている部分があって、バート・フーゲス自身も、ちょっと左側に開けてるんです。頭蓋骨ってのは誰でも子供の時、成長期は開いていて、大人になると閉じるんです。で、頭の中心にはその閉じた部分があるので、血管も集中しているし、大量に出血する危険性が高いところなので、病院の治療でもセンターに開けることは稀。だいたいは左側に開けることが多いかな。
S それはどうしてですか?
K 施術者がだいたい右利きだってこともあるんだけど、右脳左脳の関係の問題だっていう意見もあります。

F この前ちょっとお聞きしたんですが、前田さんご自身もトレパネーションをやることを考えざるを得ない状況であると言っていましたよね。
K ピアスの取材の時も体験取材でそうしているので、いつかそうなる可能性はあると……。
F 現状、日本人ではトレパネーションの被験者はいないんですか?
K できないんですよ。病院でしてくれないから。いま僕はエジプトのカイロでやってくれるところを知ってるんですけど、日本ではトレパネーションに一番近い位置にいるということは自覚しているので……あとのお楽しみかな。
F お楽しみって(笑)。
K ちょっとおもしろいのは、トレパネーションをしてマスコミデビューした人ってけっこうどの年代でもいるんですけど、みんなだいたい穴を開けてからデビューしてるんで、穴を開ける前と比較できないって言われているんですよ。で、今日僕はまだ穴を開けていない状態をみんなに見せているので……。
F 施術前のデフォルト状態と比較ができると。
K そうですね。あと、ITAGっていうのはアメリカに本拠地があって、その人たちに会って取材してるだけだと、基本的には覚醒の効果を信じている人たちだから話はおもしろいんですけど、科学的な結論はないんです。個人個人、意見はバラバラで、喩えていうと「宇宙人を見た」っていう人たちの話に近い。それって何人に聞いても、実際にいるのかはわからないじゃない? 僕はそれを、もっと科学的にレポートしたい。だから2010年6月にロシアのサンクトペテルブルグに行って、トレパネーションの研究所も取材してきてるんですよ。それはまだ記事としてどこにも出してないんですが、コアマガジンの『BUBKA』っていう雑誌でオファーもらってるので、そこで夏のドキュメンタリー映画公開と絡めてやりたいと思ってます。
F おお、遂に進捗報告が。
観客 『ホムンクルス』のように実際に何かが見えるんですか?
K 『ホムンクルス』はフィクションですけど、実際に取材した感じでは、明らかに影響は出てて、変化はあるんですよ。僕が会ったITAGの人たちは4人いるんですけど、その人たちがみんな同じように変わってたら「トレパネーションでこう変わる」って言えるんですけど、4人はみんなバラバラで、それぞれの覚醒が進んでいるので。リーダーのピーター・ハルヴォーソンっていう人はやってすぐに覚醒を実感して、それを世界に広めたいって思った。アマンダ・フィールディングと連携して病院を探したり、凄いアクティブになった。残りの3人。ひとりは、ピーターの昔から友達だった人なんですけど、開けたあとはジュエリーデザインの仕事に携わっている。穴を開けてからデザインの才能が開花して、社会的に成功している。もうひとりは、若い人で、音楽を専攻していた人だったんだけど、サキソフォンをやっていて、若いうちに開けた。そのあとは、よりスピリチュアルな方向に傾倒して、ベジタリアンになった。凄く瞑想的な生き方をするようになったという感じかな。最後のひとりは、歳のいった女性の方なんですけど、旦那さんを病気で亡くされて精神的にダウンしていた時にITAGを見つけて、その悲しさを忘れるために穴を開けたっていう。
F それ凄いですね……実利的すぎる。
K ピーター・ハルヴォーソンも実は奥さんを亡くしていて、アメリカっていうのはそういうパートナーを亡くした人たちが慰め合う会っていうのが存在しているんですよね。彼らはそこで知り合ったらしいんですよね。それで落ち込んでいた彼女を「じゃあ頭に穴開けよう」ってなって。
F 「じゃあ頭に穴」って(笑)。
K それでいまは凄く元気な人になっているっていう。
F ということはこのアル中患者が人生が悲しくてどうしようもないから「じゃあ頭に穴開けよう」ってことも……。
K 医学的に立証されれば、そういう社会になることはあり得るよね。穴を開ける前に会ってないからわからないんだけど、みんなちょっとオーラっていうか、明らかに効果があった感じはわかるんですよ。それで僕は科学的な研究を続けているロシアに取材に行ったと。病院ではないんだけど、医学の研究所に。オステオパシーっていう整体の1ジャンルで頭皮の上から頭蓋骨を触って病気を治すっていうのがあるんです。フランスとアメリカで発祥してもう100年くらいの歴史があるものなんですが、それを、ロシアで科学的に立証したユーリ・モスカレンコ博士っていう人がいて、その人を取材してきたんです。
F しかし知らない人の名前ばっかり出ますね(笑)。
K 僕はそれ専門なんで。
S UFO特番だと思えばいいんだよ(笑)。
K そういうことが、いま僕らが生きているこの時間・空間に起きているっていうことが重要なんで、それを知らせるのが僕の役割であるわけじゃないですか。それで山本さんの『ホムンクルス』が生まれたりして。
S カッコイイです。
K いやいや(照)、それでね、ロシアのユーリさんはトレパネーションにはアンチ・エイジングの効果があるっていう尺度から研究していて、オステオパシーでは充分に治療できない病気を治すという目的。あとは老化によって頭蓋骨が固くなっている人の話があって、ユーリさんは穴を開けることによってよりオステオパシーの効果がより期待できるんじゃないかって考えていて。それについての論文も発表しています。
F なるほど。ところで、釣崎さんはやってみたいと思いますか?
T バカ言ってんじゃないよ。俺の中で一番怖いものがあるとすれば、前田くん系の文化!!
K ありがとうございます!(笑)
(次回「人体の冷凍保存編」につづく/今月末更新予定)
死体写真家釣崎清隆 新著『死者の書』発売記念イベント
「NIGHT OF THE DEAD」
死体写真家釣崎清隆、「ゴア」を語る。死体をテーマに芸術作品を発表する世界でも唯一無二の存在である釣崎清隆が、3月10日に発売する単行本『死者の書』を自ら解き明かす刊行記念トークイベント。釣崎の写真、映像作品をはじめ、全世界を騒然とさせるグロ画像、動画を解説しながら、多彩なゲストを迎えて死者と踊る夜。なお、当日はサイン会も予定。
出演:釣崎清隆(死体写真家・映像作家)
バクシーシ山下(AV監督)/森下くるみ(AV女優・ 作家)/アイカワタケシ(イラストレーター)/前田亮一(身体改造ジャーナリスト)/曽根賢(〝ピスケン〟『BURST』元編集長)/柴田剛(映画監督)/福田光睦(Modern Freaks Inc.)
開催日時=2011年3月20日(日) 19:30 START(18:30 OPEN)
会場=東京・大久保「ネイキッド・ロフト」tel.03-3205-1556
入場料=¥1,500(前売り)/¥1,800(当日)※共に飲食代別
協力=Modern Freaks Inc.
提供=三才ブックス
釣崎清隆ホームページ



