Matsuzawa Interview of Modern Freaks Web Ver.1.0

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー29

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview & Photo
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

性風俗カルチャー全般、エロ本全般から各種メディア論、さらには提灯、暖簾、石灯籠、カムジャタンまで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺ってきたところ、出版という産業の現状を端から端まで検証してゆく長い長い話に。そして迎えたキリの悪い第29回。7月初旬に掲載開始し、著者インタビューの範疇を超えて約3カ月にもわたり自作自演で大作に仕立て上げた大長編インタビュー、遂に感動の最終回です!



last.jpg松沢呉一氏近影(2009年10月1日撮影)。

日本一のエロ本蒐集家・松沢呉一が語る出版の未来。


「では、まとめに入るか。インタビューでは、この先どうするかをまとめにすることが多いので、先の話をしておこう。『世界』では見えない未来も、エロ本から見えてくるのだよ」

——どんな未来ですか?

「出版の歴史はもうじき終わるって未来だ。完全にはなくならないけど、ここ十年くらいで、半分くらいにマーケットは縮小する。実のところ、すでにエロ本はほぼ終焉している。今も出てはいるけど、DVDのパッケージとして辛うじて残っているだけ。編集者だったはずの福くんがDVDの撮影をやるようになったのもその流れだよね」

——エロ本はDVDをつけないと売れないし、取次が扱ってくれなくて、ずっと抵抗していた『S&Mスナイパー』(ワイレア出版)も最後はDVDつきになりましたからね。

「それでも廃刊に追い込まれたわけだが。もう何年も前に聞いた話で、書店のレジでエロ本を買って、その場でDVDだけ引きちぎって、本体は“捨ててください”って店員に渡すのがいる。この話を聞いた時は心底ショックを受けた。出版側としては雑誌を出し続けるための付録としてDVDをつけていたのに、いつの間にか逆転して、本体がDVDで、エロ本は付録、あるいは包装紙でしかなくなってしまったんだよね」

——DVDもハードディスクにコピーして捨てるんでしょうね。

「たぶん。邪魔だし、家族に見つかるからさ。パソコンで観ていれば、家に持ち帰った仕事をしていると思わせることもできる。いくら一所懸命原稿を書いたり、撮影をしたって無駄ってことだよ」

——DVDの動画もメーカーから提供してもらったサンプルで、雑誌に使っているグラビア写真もメーカーからの借り物だったりしますしね。

「編集者も撮影の現場に行く機会がどんどん減っていて、撮影するとしても、DVDの撮影。編集者がハメ撮りしていたりして」

——そのせいで、スタジオの需要も減って、閉鎖になるスタジオも出てきている。

「ハメ撮りだったら、ラブホか、誰かのうちを借りた方がリアルだし、安く済む。エロ本の需要が減ったスタジオを今はテレビ番組が使っていたりする。制作費が減って、高いスタジオを使えなくなって」

——DVDをつけるぶん、ページ数も減ってますから、ライターの出番も少ない。

「久々に編集者から電話がかかってきたかと思ったら、原稿依頼じゃなくて、DVDのエキストラ出演の依頼だったりする(笑)。ここ数年ずっとそういう状態が続いて、ここにきて、またちょっと流れが変わってきたけどね。文字を入れないと定期の購読者を獲得できないことがわかってきて、特にマニア雑誌では、DVDだけで勝負はできない。とはいえ、全体としては、今まで慣れ親しんできたエロ雑誌はもう終わりつつある。それでも雑誌という体裁にした方が書籍流通に流せるので、純然たるDVDより部数は出る。値段も安いし、あくまで付録ってことだから、それほど高いクオリティは求められなかったりもするので、製作する側のハードルは低い」

——だから、エロ本の出版社も、実態はDVDメーカーの宣伝部門みたいになっていたり。

「雑誌が売れなくなっても、宣伝媒体としても、流通としても、出版社には価値があるから、傾きかけた出版社をDVDのメーカーが買収する。これが出版の未来だよ。表現の規制も、行動の規制もエロから始まる。これについては、オレが監修した『ポルノグラフィ防衛論』やすが秀美・花咲政之輔編『ネオリベ化する公共圏』に書いた一文を参照して欲しいけど、“エロだから規制されてもいい”“エロは排除されていい”という発想は必ず自分の表現や行動を規制していく。現にネットの規制もエロが名目になっている。だから、エロから未来を見通すことができる。オレは、早くから風俗誌の凋落を見て、すべての雑誌は同じようになると言っていて、その通りになったわけだが、それでもなんとかエロ本は残っている。同じように、それでもなんとか出版は残るけど、DVDのパッケージとして残るのと同じような意味で出版は残る」

——印刷物の形骸だけが残っていくってことですかね。

「以前から、健康食品の宣伝本や宗教団体の宣伝本ばかりを出している出版社はあった。医薬品や病院は宣伝が規制されているので、本という形でパンフを作る。製薬会社や病院、宗教団体に5千部買い取りといった形で営業して本を作るわけだ。それを買い取って配布したり、本の広告を電車やタクシーに出したりする。ストレートに病院や薬品の広告を出すことは禁じられていても、本の広告だと規制ができない。具体名を出すとまずいかもしれないので伏せるけど、今までこういった本作りをやっていなかった中堅の出版社がヨイショ本を出すようになっている例がすでにあるんだよ。信頼がなくなると思うけど、それどころじゃないんだと思う。本の売り上げだけではもうやっていけないので、こういう形で金をどこかから引っ張ってきたり、中身を借りてくることで雑誌や本を出していくしかなくなるのは必至だよ。しょうがないと思うけど、そういうのはつまんないじゃん」

——ですね。

「だから、我々が目指すべきなのは、『ダイバスター』だ(笑)。エロ本が終わりつつある時代だからこそ、かつてエロ本はこんなに豊かだったのだという歴史を見せる作業として『エロスの原風景』があるんだけど、それだけをやっていてもおもしろくない。今の時代を踏まえた出版物、あるいは出版物じゃなくてもいいんだけど、おもしろいことはまだまだできると思っている。そう思って、雑誌の企画もいろいろ出しているんだけど、なかなか理解されない。さらに出版界が危機に追い込まれれば理解してもらえるかもしれないので、もっともっと本や雑誌が売れなくなって、出版社が次々と潰れてくれれば(笑)」

——まとめの言葉がそれですか。

「ダメ?」

——いや、いいですけど。

(ここで今までいなかった「宋家ガムジャタン」の店主が店に入ってきて、松沢に挨拶)

——さすがもうすでに顔ですね。

「日本の出版界の未来と日本のカムジャタンの未来を握る男だからさ。日本の暖簾の未来も。ところで、提灯の話はしなくていいのかな。提灯には日本人の宗教観が凝縮されているって内容だけど」

——しなくていいです。(店員に)すいません、お勘定お願いします。

(了)

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松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版