matsuzawa03 of Modern Freaks Web Ver.0.9

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー03

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview & Photo
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マ
ッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

エロ本、アンダーグラウンドカルチャーから果物、さらには男性器まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であることは本連載の読者ならもはや衆知のことだろう。そしてこの2009年7月、彼が莫大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺う予定だったが、なぜかカムジャタンの話から書評の話に終始。今回もやはり書評の話に始まり、そして。



soukenai.jpg宋家ガムジャタンの店内。我々だけではなく、各界の著名人も足繁く通う名店である。

まだまだ、 書評の話。


「風俗産業の話はもういいや。風俗ライター時代に言い尽くしたから。風俗ライターがいくら言っても無駄だってことも悟った。その話はここまでとして、エロ本だ」

——エロ本はどれも厳しいですよね。とくに18禁の雑誌は。

「だな。インターネットに読者をとられていることもあるし、18禁の雑誌を扱う書店が減っていることもあるし。いよいよ書評を出してくれる雑誌は減っていくよ。仕事の場も減っていく」

——書評ってどのくらいの効果があるんでしょうね。

「自分自身の経験で言えば、アマゾンで順位がはっきり上昇するような効果のある書評が出たことは一度としてないと思う。ただし、雑誌で読んですぐに本屋に行くわけではなく、二カ月くらい経ってから本屋に行って、雑誌で見た本を手にすることもあるので、影響が長い期間に分散して数字に出にくいという事情もある。それに、アマゾンをチェックするようになって以降、オレの本は大きく扱われたことがないためでもあって、部数の多い雑誌にインタビューが出たり、記事扱いになればもっと動くとは思う。だから、数字に出ないからと言って、書評の影響がゼロってわけではなくて、出るに越したことはない。マイナスってことはないんだから」

——それにしても、そんなもんなんですか。

「そんなもん。オレは平気で批判的な書評を書くけど、どうせ影響なんてないから、配慮や遠慮はするだけ無駄。読物としては、ヨイショより批判的なものの方がおもしろいべ。もちろん、批判すべきものを批判するだけで、面白いものは面白いと書くとして」

——効果がないのは読まれていないからですかね。それとも、読んでいる人はいるのに、購買に結びつかないってことですかね。

「どっちもあると思うけど、どちらが大きいかと言えば、読まれないってことじゃないかな。オレも書評はほとんど読まない。読むことがあるとすると、自分が読んだ本を他人がどう読んだかを知りたい時。“内容紹介しているだけじゃないか”ってことが多いので、その点でも好奇心を満たされることはあまりなくて、なんにしても、最初から書評が本を買うきっかけにはならない。雑誌の読者アンケートで、書評欄が上位に入る雑誌はほとんどないだろ。本だけじゃなく、音楽や映画、グッズ紹介などを入れた情報欄がベスト10に入ることはあっても。そういう欄にはよくプレゼントがあるので、プレゼント欲しさの人には人気があって、そういう人たちが読者アンケートを書くからさ」

——新聞は?

「部数が多いから、雑誌に比べればずっと効果がある。でも、それも知れている。オレの本や監修本でも、新聞に小さく出たことはあるんだが、まったく効果なし。目立ちやすい分、広告の方が効果はありそうだけど、それも経験で言えばはっきりとした効果はなし。ちょっと前まで、朝日新聞の書評だけは効果があると言われていて、それももう数字には出ないらしい。なにしろ、パクリとガセの代名詞である唐沢俊一が書評委員だったくらいで、信頼する方がおかしいだろ」

——たしかに。

「ただ、『天声人語』に取りあげられると今も注文が殺到すると聞く。『天声人語』は読んでいる人が多いってことだろうね。雑誌でも、書評欄より、それ以外の記事の中で取りあげられると動くと言われている。よく雑誌では、自社の本を切り口にした記事を組んでいる。書評欄じゃダメってことを出版社もわかっているってことなんだと思う」

——「続きはこの本で」みたいな。

「そうそう。それでも、新聞の書評欄を見て注文を出す書店は今もあって、書評を貼ったポップを出したり、コーナーを作ったりするので、効果がないわけではない。書店員はチェックしているから、書評は書店向けの営業の意味合いが強いんじゃないかな」

——何百万部の新聞でそれなら、雑誌の書評なんて知れている。

「あくまで数字に出ないってだけのことで、それも効果がないわけではない。月刊誌に取りあげられて、1カ月間に全国で50冊売れたところで効果は確認しにくいけど、50部売れるんだったら、掲載された方がいい。10誌に出れば500部になるんだし。でも、現実には、2万部程度の雑誌に取りあげられても、一桁しか動かなかったりする。2万人のうち、書評欄まで読む人は10%として2千人。その2千人も全部の書評を読むわけじゃないから、ある特定の書評を読むのは半分の千人。そのうち購入に至るのは、1%以下だろうから、一桁だよ。小さい扱いだったら、ゼロもあるだろうね。効果がほとんどなくなったと言われる全国紙の数百分の1の読者しかいないんだから、当然の数字だ」

——さすがに数字好きだけあって、計算が早いですね。

「まあな。数学はバカだけど、数字は大好き。数字があればご飯を三杯は食える。一日中、そういう計算しているよ。一日中というのは大袈裟か。提灯の研究もやっているし、チャットもやっていて、残った時間に計算している」

——そんなことをしているから、原稿がなかなか送られてこないって編集者が困っているんですね。

「そそそ。今日もこんなことをやっている場合じゃなくて、『スナイパーEVE』の原稿を書かなきゃいけないんだが、カムジャタンの方が大事だろ。カムジャタンじゃなくて、せめてこのインタビューの方が大事って言うべきか。二重三重にひどいな(笑)」

(続く)

追記:小売店の情報によると、新聞の書評は、本の質によって反響はまったく違い、中高年齢層に向けた本は動き、若年層に向けた本はまったく動かない傾向があるとのこと。新聞の書評は中高年しか読まないってことかと思われる。

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松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版