『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー04
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マ
ッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
エロ本、アンダーグラウンドカルチャーから石灯籠、さらにはカムジャタンまで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が莫大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中になったことも読者諸兄には知るところとなった。そしてその完成を機に、新刊単行本についての話を伺う予定だったが、本題に至らぬこともまた衆知のところ。今回は、ビジネスのお話でございます。
話の内容的になぜこの写真なのか微妙ですが、これが宋家ガムジャタンのオーソドックスなカムジャタンです。
今度は、 出版業の話。
「出版業界って、プロモーションをあまりしないんだよね。昔、オレが音楽や映画関係の仕事をしていた時の比較としてそう感じる。工藤公康投手が現役だった頃のことだ」
—–今も現役です。
「野球のことはよくわからん。レコード業界にも、イベンターにも、外タレのプロモーターにも、大手の事務所にも、兼業にせよ、宣伝担当が必ずいるのに、出版社では、宣伝担当は特にはいない。編集者が片手間にやるだけ。映画の世界では、宣伝専門の会社もあるのに、出版では聞いたことがない。あるかもしれないけど、ほとんど機能していないっぺ。そのことを不思議に思って、出版界もプロモーションという考え方を導入して専門の宣伝マンを設置した方がいいんじゃないかと当時は思っていたんだけど、よくよく考えると無理なんだよ」
—–利益が少ないからですからね。
「ひとつの書評で50部売れて、それが10誌で500部だったら書評は掲載される価値があると言ったけど、1500円の本が500部売れたって、出版社の売り上げは50万円くらい。利益はその半分として25万円。確実にそうなるならいいけど、そうなる保証はない。いくらプロモーションをしたって、『天声人語』には取りあげられないだろうしさ。その程度だと余分な人件費は出せないし、宣伝会社に金を払っていたら、ナンボも残らない。下手すりゃ赤字」
—–ショボい商売ですね。
「でも、化けたらおいしいよ、もちろん。本は増刷以降、紙代と印刷代と製本代と印税しかかからないから、札束を刷っているようなものなんて言われたりして、たった1冊のベストセラーでビルが建ったりするけど、なかなか化けない。下手に売れると、返本の山になって、かえって会社が傾く。たまに増刷になって喜んでいる程度が一番いい」
—–ベストセラー倒産って聞きますからね。
「都市伝説っぽくもあるんだけど、実際に倒産した会社があったという話を聞いたことがある。出版社名も本のタイトルも聞いたけど、全部忘れた。夢で聞いたかもしれない(笑)。でも、薄利のくせに、多売も難しい商売であることは事実。とくに今は。宣伝マンを置くことで化けるくらいだったら、どこもとっくにやっている。初刷1万部くらいの単行本を月に何冊も出しているような出版社は、トータルでそこそこの宣伝費を使えるから、新聞広告も出せるし、宣伝担当を置くこともできるかもしれないけど、現実には必要がない。そういう出版社は自社の雑誌で宣伝すればいいだけだから」
—–雑誌を出していない出版社もありますよね、そこそこ大きくても。
「潰れた草思社とか。文庫や新書もやっていなかったから、もともと安定しない構造だったんだと思う。単行本は一回一回がギャンブルだから、雑誌を出していた方が安定する。本にする原稿の確保もできる。今はどの雑誌も厳しいけど、広告収入もある。雑誌がなかったから、草思社は広告にも金をかけていて、もしかるすと、宣伝担当っていたかもしれない。テレビで取りあげられることも多かったしね」
—–でも、潰れたってことは、そういうやり方が通用しなくなったってことですよね。
「そういうことだ。前に草思社の社長に本の売り方についての考え方を聞いて、“なるほどなあ”と大いに感心した。でも、今考えると、あの頃にはすでにいき詰まりつつあったはず。5年くらい前のことだ。王貞治はまだ現役だったな」
—–野球のことを知らないにもほどがありますね。
「刷部数を多くして全国の書店に回して、広告費をかけて、ハイリスク・ハイリターンの本の売り方はもう成立しにくい。数々のベストセラーを出してきた草思社のノウハウでも無理。半分は赤字でいいという商売だったのが、7割とか8割が赤字になったんだと思うんだよね。ないしは利益の程度が減ったか」
—–もともと半分も赤字だったんですか。
「正確な数字は忘れた。夢だったかもしれない(笑)。正確な数字はともあれ、10冊に1冊、ヒットが出て赤字分を埋めればいいという考え方だ。あくまで喩えであって、実際にそうコンスタントに出ていたわけではないだろうけど、どの本も10万部になり得る出し方をする。ヒットすれば利益が大きいのが本だから、赤字分は全部取り戻せる。草思社は、ブランドに頼ってなくて、本を著者の名前で売らない。だから、ギャンブル度がよりいっそう高い。売れる可能性がある分、売れない時の赤字がでかい。実際、千部しか売れない本もあったと思うよ。あそこは刷部数の印税だったから、現実に売れている数と印税のズレも大きくなる。本が売れていた時代はやっていけていたけど、この方法は、一定の率で一定の利益のベストセラーが出ないと途端に赤字が膨らむ。で、破綻したってことだ」
—–当時、松沢さんはショックを受けてましたよね。
「あそこの本に強い思い入れがあったわけではないけれど、雑誌も新書も文庫も出していない出版社で本を出しているオレにとっても参考になる売り方を確立していたから。半年くらいあの会社で働いて、ノウハウを盗みたいとも思っていたくらいで。ついでに金庫から金も盗んでやろうと狙っていた」
—–泥棒になってどうするんですか。
「いや、金儲けにはその方が早いかなと。草思社はタイトルも著者が決めるのではなくて、編集者や営業が会議で決める。だから、ハッタリ臭いタイトルも多いんだけど、残念ながら、本を売るにはそういうことをしていかなきゃいけない。今回のオレの本も『エロ本で10キロ痩せる』ってタイトルにしようと思ったんだけどね(笑)」
(続く)
追記:小売店の情報によると、新聞の書評は、本の質によって反響はまったく違い、中高年齢層に向けた本は動き、若年層に向けた本はまったく動かない傾向があるとのこと。新聞の書評は中高年しか読まないってことかと思われる。



