『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー05
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マ
ッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
古書、アンダーグラウンドカルチャーから暖簾、さらにはマゾ男性まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が莫大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中になったことも読者諸兄には知るところとなった。そしてその完成を機に、新刊単行本についての話を伺う予定だったが、本題に至らぬこともまた衆知のところ。今回は、前回に引き続き出版業種の実情を……。
なかなか本題が始まらないので写真が枯渇気味……松沢氏前作の『風俗お作法』の書影です。
今回も、 出版業の話。
「ネットを見ていると、大手を基準に出版界全体を語っている人がけっこういるんだよね。印税が刷部数の10%で、初刷が6,000だの8,000だのといった数字を書いていたりする。そんな本ばかりのわけがない。むしろそういった大手の条件は、出版界全体の中では、例外的とも言えるわけで、もっと出版界全体を見渡して欲しい」
——給料だって大手と中小では全然違う。
「片や30歳で年収1,000万、片や年収300万だったりするからね。書店員の待遇がまたひどい。本を作っている出版社と、それを売っている書店員の収入格差がよく話題になる。書店員は小売業の中でも最底辺。ずいぶん前に、どこかにデータが出ていて、数十種の小売業の中で、クリーニング屋の次に労働条件が悪いのが書店だった。今はもっとひどくなっているから、最下位かも。給料安いわ、労働時間長いわ、体力いるわ、手は切るわ」
——意外に力仕事ですからね。
「今の書店はバイトと契約ばかりで、ワンフロアに正社員が1人しかいなかったりする。それでいて、“最近の書店員は本のことを知らない”なんて非難される。あれだけ働いて、その上、本のことまで勉強できるわけがない。一所懸命努力したところで、1年か2年で契約を切られたりするんだし。書店の実情について無知な客ならともかく、そういうことを平気で言う編集者やライターもいる。鬼か、おまえら。書店員がタイトルさえ覚えられないくらいの大量の本を作って送りつけておいて、よく言えると思う。30年前、50年前に比べると、発行点数が数倍になっているんだから、いくら勉強熱心でも把握できない。書店員は本のことなんて知らなくていいんだよ。かわいければよし」
——せっかく全国の書店員の熱い共感を呼びそうな展開だったのに、結論で台無しです。
「きれいでもよし」
——一緒ですよ。
「書店はバタバタ潰れているから、正社員だって、いつ失職するかわからない。失職したら、講談社の敷地内に、年越し書店村を作るといいと思うぞ」
——いいですね。まさか追い出さないでしょう。しかし、よくもそんな労働条件で、人が集まりますよね。
「今も本が好きって人が多いってこととともに、世間体がいい。昔は、見合いに有利というので、女子の人気が高かったらしいよ。真面目で知的ってイメージだろ。現実にははぐれ者も多いと書店員が言っていた。1年働いて、1年海外旅行をして、戻ってきてまた1年働いて。待遇はよくなくても、大きい書店だと、常時募集をやっているから、働きやすいんじゃないか」
——それだといよいよ本のことは知らない。
「そういう現実を知れば、“もっと勉強をしろ”なんて言えないはずで、勉強すべきはそういうことを安易に言うヤツらの方。大きい書店だったら、在庫があるのかないのか、どこの売り場のどの棚にあるのかネットで調べられるんだから、自分で調べろ。本を探すノウハウは自分で身につけるしかなく、だから、書店員は本のことを知らなくていい。それよりもパチンコ屋のように、ケバくてエロいミニスカの店員が揃っている書店がオレの理想だ」
——またそれですか。
「だって、書店員はしゃがむ機会が多いんだぞ。パンツが見えるんだよ。本が売れれば売れるほど、補充のためにしゃがむ機会も増える。つい本を買っちゃうだろ。それを見込してプロモーション用のパンツを配布して、パンツが見えたと思ったら、『エロスの原風景 2,940円』と書いてある(笑)」
——どこまでも本の宣伝を考えてますね。
「もちろん。ただ、この計画の難点は、ケバくてエロい女の子たちは、本屋の時給じゃ働かないことだ。もう一点の難点は、宣伝用のパンツを配布する予算がないことだ(笑)」
——どこまでもダメな計画ですね。
「でさ、この時に書店員との比較で出される出版社も大手なんだよね。30歳で年収1千万の出版社なんてほんの一部。小学館や講談社が数十億円の赤字と言ったって、“おめえらの給料を世間並みにすればいいだけだべ”って話で、全然同情する気になれない。既得権の部分もあるにせよ、現に儲けていたんだから、社員がその利益を配分してもらうのは当然だけど、儲からなくなってきたら、配分が減るのも当然。どっちも社員は千人くらいいるから、1人年間100万減らせば、10億の赤字は瞬時に解消。500万減らしても、エロ系出版社の給料よりまだ多い」
——悲しすぎるなぁ。
「潰れかかっている弱小の出版社だったら、40歳で年収300万の出版社だってあると思う。書店員よりひどいかも。休みの日にバイトをしている編集者が現実にいるからね。編集者の大半が契約社員の編集部もザラにあって、今だと明石書店が揉めに揉めている。反差別だの人権だのを売りにしてきた出版社の実態は、残業未払い、組合潰し、不当解雇のオンパレード。組合ができる以前から、労働環境が劣悪な会社だと聞いていたけど、これほどまでとはオレも思ってなかった。これもまた出版界の現実であって、大手の赤字より、こっちの方がずっと深刻な問題だと思う」
(続く)



