『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー06
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マ
ッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
ビニ本、アンダーグラウンドカルチャーからセクシャリティ考察、さらには女王様まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺う予定だったが、本題に至らぬまま「そもそも現在の出版業とは」の講義に突入。今回もまだ運ばれない“幻のカムジャタン”を待ちながら……。
なかなか本題が始まらないので写真が枯渇シリーズ第2弾。松沢氏となべやかん氏監修の『嗚呼、涙のハードコアお笑い劇場』の書影です。製作は私、福です。松沢氏には別冊付録にて元氣安インタビュー完全版などでも活躍していただいています。
今回も、 出版業の話。
「大手は大手で出版界に貢献してきたから、大手が潰れると出版界全体がやっていけなくなる。大手の不採算部門の切り捨てによって、すでに意外なところに影響が出ている。大手出版社が金を出していた出版関連の団体がいろいろあって、そのうちのいくつかが廃止になりそう。だから、大手の困窮ぶりは他人ごとではないんだけど、大手出版社や新聞社は経費節減のために子会社化を進めていて、編プロ丸投げみたいな本作りも増えているから、大手出版社や新聞社の社員が高給をとるための皺寄せは末端にきている」
――テレビもそうですよね。
「もともとテレビは下請けの構造が進んでいたわけだが、さらに加速しているみたいだね。テレビ局員が高給をとっている裏で、制作会社はヒーヒー言っていて、次々潰れている」
――編プロも潰れてますしね。
「こんな時代に、今までのような出版ビジネスが成立するわけがなく、今後は今まで以上にローリスク・ローリターンの出版社しか残れないと思う」
――ポット出版のような。
「ポットも出版事業だけを取り出したら、たいして利益を出していないだろうから、出版社の目指すべきモデルになり得るかどうかは微妙だけど、ああいう方向ってことだよね。小さい出版社はどこでもそうだし、筑摩(書房)あたりもそうだけど、初刷部数を抑えて、定価を高めに設定し、千部単位で細かく増刷する。 10年も20年も前から言われていることだけど、本の定価は安すぎる。これが出版界のクビを絞める理由のひとつになっている」
――僕も安いとは思います。
「なんで安く設定されてきたのかといえば、無駄に部数を増やしてきたから。それによってマーケットが膨らんだのだから、悪いことではないけれど、いざ適正な価格をつけると、高いと文句を言われる。『エロスの原風景』3,000円弱だから高いというヤツがゴロゴロ出てきそう」
――オールカラーで2,940円だったら高くないじゃないですか。
「そう理解できるのは本の定価がどう決定されるのかをわかっているから。それと、そういう価格の本を買い慣れているから。でも、世の中の“本好き” を自称する人たちでさえも、本というブツや本という商品についてはまったく理解していないから、大手が出している1200円の本と単純に比較して高いと言う。牛角と比較して(叙々苑)游玄亭が高いと文句を言えばバカにされるだろうに、本は高いと言ってもバカにされない。3,000円のCDやDVDよりずっとブツのとしての本の原価は高いんだけどね。ジャケットの印刷費を入れたって、CDやDVDの製作費は1枚100円か200円だろ。その分、CDやDVDは、ソフトの製作費が本よりかかっているけど、『エロスの原風景』で言えば、資料代が膨大だから、その意味でも原価はかかっている」
――いまは製作費だって本より安いDVDも多々ありますよ。CDやDVDで3,000円なら文句が出ないのに、本だと途端に文句を言われるのは確かにおかしな話ですが、事実です。
「そりゃ、オールカラーにしなければもっと安くなるけど、そうすると、今度は“オールカラーにして欲しい”って言われるし。出版界も悪くて、本は商品であるという当たりまえのことを読者にわからせてこなかった。自分たちは文化を担っていて、霞を食っているようなツラをしてきた。著者は“一人でも多くの人に読んで欲しい”なんて言ってきた。本当にそんなことを思っているんだったら、ネットでタダで公開しろ。“一冊でも多くの人に買って欲しい”と正しく言え。本という商品にする以上、ゼニが欲しいに決まっているだろ。それでワシらは食っているんだからさ。それを理解させるために、『黒子の部屋』では延々と部数、定価、印税などについて説明してきたんだけど、なんでワシのようなエロライターがそんなことまで読者に教えなきゃいけないのかって理不尽な思いがある」
――それは松沢さんが出版界の汚れ担当だからですよ。
「世間から叩かれるわ、仕事の場は奪われるわ、収入は少ないわ、発言は軽視されるわ、尻拭いはさせられるわ。ライターも、見栄を張って売り上げを年収のように言いたがるから誤解されがちだけど、ワシらの年収は売り上げから経費を引いた分だから、オレは年収300万くらいだよ。そんなカツカツの商売をしているオレが、もっと年収の多い人たちに本が高いって文句を言われるんだから切ないよ」
――雑誌の編集者も単行本の事情は意外に知らなかったりしますし、編集長以外、雑誌の部数もよく知らないことがあります。
「だよね。自分が働いている出版社の掛け率を知らない編集者も珍しくない。編集者はいい記事さえ作っていればいいという考え方が今なお強いから。でも、それじゃあもうやっていけないと思うよ。つうか、実際にもうやっていけなくなっているんだし」
(続く)



