matsuzawa07 of Modern Freaks Web Ver.0.9

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー07

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview & Photo
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

お尻、アンダーグラウンドカルチャーからカストリ誌、さらにはホーミー唱法まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺う予定だったが、本題の前置きとして語った厳し過ぎる出版業界の実状。大変勉強になる講義なのだが、肝心の新刊本の内容はまだ手つかず、そして、やはりというか“幻のカムジャタン”は運ばれてこないのだった……。


sniper EVE33.jpgなかなか本題が始まらないので写真が枯渇シリーズ第3弾。松沢氏もインタビューにレポートにと大活躍の女王様専門誌『スナイパーEVE』vol.33がアダルト書店を中心に発売中。松沢氏も大好きなペニスバンド着用の女性が表紙の目印です。

とどまることを知らない出版業の話。


「このところの大手の凋落ぶりを見ると、“本の身の丈”に合わない部数を作って、定価を下げてばらまく方法では立ちゆかなくなってきているってことだと思う。つうかさ、これ以上、返本率(*1)が増えると、取次がバーストするべ。売れない本をあっちこっち回しているだけなんだから」

――全体の返本率は4割って言われていますね。

「今現在、43%くらい。このままだと数年内には50%に達する。返本にかかる経費は出版社が負担しているけど、それだけだと利益が減ってしまうから、取次はやっていけない。しかも、この間、ポット出版の沢辺さんが『黒子の部屋』にコメントしてくれていたように、本の定価が安いために、流通コストがかかりすぎて、取次は儲からなくなっているという見方もある。流通経費は定価のパーセンテージで抜かれているのだから、高い本は安い本の経費まで負担させられているとも言える」

――その点でも、やっぱり本は安すぎる。

「だって、オレが高校の時で、単行本は900円から1,000円くらいしていた。ハードカバーだと1,000円を超えていたんじゃないかな」

――それっていつ頃ですか。

「名古屋で星野仙一が“仏壇、ほしいのー”と仏壇屋のコマーシャルをやっていた頃」

――知らないですよ。

「1970年代の後半だ。物価はざっと倍くらいになっていると思うが、適正価格で本を出している出版社は別にして、本の値段は1.5倍かそれ以下じゃないか。高校生のオレでも、そういう値段の本を買っていたのに、今時は、大人でも本を高いって言う。どんだけ本をバカにしているのかって思う。そういうケチな消費者に迎合して、本の値段を安いままにしてきたツケがいよいよ回ってきている。値段を安くしているのは、1冊のベストセラーで他の赤字を埋めればいいという発想の表われでもあって、そのツケもきている。返本率と、刷り部数のうち売れ残った部数の率とは一致しないけど、もしかすると、本の半分以上はすでに赤字なんじゃなかろうか。ベストセラーがその赤字分を埋めているだけで。出版社が続々赤字に転落しているのだから、穴埋めができていないわけだが」

――出版界全体が、草思社と同じような構造になっているってことですね。

「こんな時代に、刷部数の10%なんて印税は維持できるはずがないってばさ。草思社が出していたものをポット出版が出していたら、それほど大きな赤字になるはずがない。草思社は、草思社のやり方に合致した内容の本を出していて、ポット出版だと“こんな本は売りようがない”って蹴る本もたくさんありそうで、草思社が出していた本をそのままポットが出すって仮定自体に無理があるんだけど、草思社だと初刷10,000部の本が、ポットだと初刷3,000部。草思社だったら定価1,300円で、ポットだと1,800円。結果、草思社だと4,000部売れて赤字で、ポットだと2,000部しか売れなくても利益が出るってことがあり得る」

――本には適切な部数と定価があるってことですね。

「そういうことだ。『エロスの原風景』はいくら値段を下げたところで5,000部は売れない。売れるかもしれないけど、売れないと考えた方がおそらく正しい。だから、5,000部売れないと出さないと考える出版社からは相手にされない。それでも出す意味があると考えれば、2,000部で採算を出す方法を模索する出版社で出せばいい。それをやるのが小さな出版社の役割で、それで値段が高いと文句をつけるのは、“出すな”と言っているに等しくて、そういう人たちは文庫を買っていればいいんだよ。オレだって、文庫をそこそこ出しているんだから。消費者にも身の丈があって、単行本が高いと思う人は文庫がお似合いってことよ」

――文庫が身の丈ってなんか嫌ですね。

「現に大多数の人はそんなもんだろ。50,000円のバッグは買うけど、3,000円の本は高い。酒代5,000円はためらいなく出すけど、3,000の本は高い。3,000円どころか、1,600円の単行本でも高いって何度言われたことか」

――映画にだって1,800円ですからね。

「身の丈に合わない高い本が欲しいんだったら、古本で買えばいい。アマゾンでも買えるんだからさ。今後は文庫、新書といった廉価本と、高額な単行本の二分化が進むことになると思うけど、どちらも返本が増え続けているから、ベストセラーを出すより、無駄な本を作らないようにするにはどうしたらいいかを考える時代になりつつあるってことだ。ポット出版も参加している『35ブックス』もそういう方向の動きだよね」

――それってなんでしたっけ。

「ポットの沢辺さんと、このことはちゃんと話したことがないので、オレも細かいところはよくはわかっていないんだが、委託販売に対して、責任販売の可能性を探るってことでしょ」

(これについては次回詳しく)

*1=出荷された書籍・雑誌のうち、書店から返品された割り合いのこと。

前のページへ

978-4-7808-0126-2.gif

松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版