『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー08
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
過去の猟奇殺人事件、アンダーグラウンドカルチャーから遊郭、さらにはHIVまで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺う予定だったが、本題の前置きとして語った厳し過ぎる出版業界の実際のところ。しかし、今回は大進展!“幻のカムジャタン”がやってきました!! さて、とりあえず動き出した今回のインタビューは!?
遂に食卓に姿を現わした幻のカムジャタン。スープのコクがもの凄い際立ち方をしている。
美味過ぎるダシと出版流通改革の話。
カムジャタンが運ばれてくる。
「赤くないのを頼んだから当然だが、こうやって改めて見ると驚くな。アルビノのゴキブリを見たような衝撃だ」
――なにもゴキブリに喩えなくても。
「さっき食虫芸人の佐々木孫悟空と話をしていたせいだ。早く食いてえ」
――うまそうですよね。とりあえずスープを試しますか。
「(ひとくち口に入れて)うんめー、すげえうめえ。アルビノのゴキブリのようなうまさだ。正直なところ、あまり期待していなかったんだが、これは期待できるぞ。普通のカムジャタンだと、どうしても辛さに隠れてしまうが、このスープだから、この店のカムジャタンがうまいってことがよくわかったよ。具がなくても、純然たるスープとして楽しめる」
――煮えるまで待つとして、話を元に戻しますが。
「カムジャタンに比べると、本のことはどうでもいいな(笑)」
――まあまあ、そう言わずに。
「『35(さんごー)ブックス』の話か。実のところ、今までもポット出版は地道に買い切りの可能性を模索してきたんだけどね。タコシェのように、世の中には取次を通さず、直接出版社と取引している小売りがある。もともとタコシェは、現状の流通からはみ出すようなものを扱うというのがコンセプトで、最初から取次を通していないもの、取次を通していても流通しにくくなっているものを拾う。だから、取次を通さずに、直接出版社と取引している」
――取次がなんなのか、よくわかっていない人もいるかもしれないので説明しておくと、本の問屋ですね。
「トーハンと日販、通称『東日販』が二大勢力。アマゾンはメインの取引が大阪屋なので、大阪屋もシェアを伸ばしつつある。世の中のほとんどの書店は、取次を通しているわけだが、タコシェはすべて版元との直接の取引なわけだ。これを直(じか)取引と呼んだりする。街娼本人がポン引きを通さず、直接客を路上でつかまえるのを直引き(じかびき)と呼ぶが、それと似たようなものだ。“じかびき”は“自家引き”だという説もあるけど、たぶん直引きだと思う。どうでもいいか」
――取次はポン引きみたいって(笑)。
「直接消費者の袖を引っ張るわけではないけど、版元と小売りの関係でいえば似たようなもんだ。で、タコシェをやってつくづく実感したのは、取次は便利でありがたいってことなんだよ。黙っていても本は入ってくるし、売れなかったら返本すればいい。立ち読みされて汚れたって気にすることはない。口座は一括だから、手間もかからない。取次の存在が日本の出版界を発展させたことは間違いない。なのに出版社の人たちは取次を悪く言いたがる。掛け率が悪いとか、雑誌の部数を減らされたとか。改善すべき点はあるし、本を大量に作ってばらまく方式が限界にきているのは事実なんだけど、取次依存を脱したいんだったら、直販に力を入れればいい。ところが、現実には多くの出版社が直取引に冷淡なんだよ。門前払いの出版社もあれば、8掛けの買切なんて、ひどい条件を出してくる出版社もある。なんで委託より買切の方が卸値が高いんだって話で、5冊仕入れて1册残ったら利益なしだからね。取次を通したところで、書店の仕入れ値はそれに毛が生えた程度だけど、残った分は返本できる」
――再販制度があるから、売れ残った本を割引することもできないわけですね。
「再版制度は取次との契約に過ぎないから、契約のない店は割引販売をしてもいいはずなんだけど、割引をしないことを条件にする出版社も多い。独禁法違反だよ。たしかに取次と契約している書店と違って、直取引の委託は怖い。保証がないので、店が潰れたら金を取りっぱくれる。だから、買切になるのはやむを得ないとは思うけど、買切で8掛けはひどいし、安売りすることができて初めて買切が成立するんだと思う。出版社は、文化だかなんだかよくわからんものを楯にして殿様商売をやっているんだよ、今でも。コンビニの弁当を割引させないセブンイレブンの比ではなく、出版界は叩かれるべきだと思う。中には、出版社が直取引をしてくれないため、著者が著者割引で自分の本を購入して、タコシェに委託納品しているケースもある。売る気のない出版社で本を出すと、著者がここまでしなければならない。だったら、“取次の悪口ばっかり言ってんじゃねえよ”ってことだべ」
――一気にまくしたてましたね。
「早くカムジャタンを食いたくてイライラしている(笑)。でも、一方には直販に積極的な出版社もあって、ポット出版はその筆頭。いち早く送料出版社持ちで通販を始めていたし、小売りに対しても、たくさん買うと段階的に掛け率を下げてくれる。返本がないんだから、その分、掛け率を下げるのは当然。『35ブックス』も掛け率は65%。委託より1割以上利幅が大きい。売れ残りは定価の35%で返本可能。参加出版社が少ないし、多くの出版社同様、小売りも今までと違うことはやりたがらないので、インパクトを与えるために、時限再版にすべき、つまり割引販売ができるようにすべきだったと思うけど、試みとしてはおもしろい」
(続く)
松沢注:現在私はタコシェの経営に一切関与しておらず、ここに書いた話は私が関わっていた時の話で、再販制度に批判的なのも私個人の見解。当時に比べれば実績があるので、出版社側からの営業も増えているだろうし、協力的な出版社も増えているかもしれない。『エロスの原風景』もそうだが、紀伊国屋全店を超える部数をタコシェが売る場合もあるわけで。



