matsuzawa09 of Modern Freaks Web Ver.0.9

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー09

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview & Photo
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

雑誌の休刊、アンダーグラウンドカルチャーからエロ本、さらには中吊り広告の欠け具合まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うも、前置きとして語った厳し過ぎる出版業界の実状がぼろぼろと……。今回は出版に限らず、メディアと広告の関係を、鍋が煮えるのを待ちながら……。


talking.jpgカムジャタンもまだ煮えぬままに白熱する「宋家ガムジャタン」内の一角。

落ち続けてゆく広告。


「マツワル(有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』)でずっとやっている話だが、オレは電車の中で広告をチェックするのが趣味で、かつて一カ月待ち、二カ月待ちと言われたこともある中吊り広告がスカスカになっている。地方都市の鉄道では、最初から広告のホルダーが少なくて、それでも埋まっていなかったので、凋落ぶりを実感しにくいと思うけど、東京では、ここ数年、急激に広告が減ってきている。都内を通っているJRや地下鉄はまだ埋まっているけど、私鉄は惨憺たるありさまで、出ているのも鉄道会社と関連企業の広告が目立っていて、純然たる有料広告は半分を切っていたりする」

——そうやって広告をマメにチェックしている松沢さんはありがたい乗客です。

「そうだよ。乗客の多くはケータイを見ているから、中吊り広告がそんな状態になっていることにさえ気づいてない。つまりは電車に広告を出しても見てもらえない。乗客の行動が変わってきて、広告効果が落ちたわけだ」

——最近は電車の中で本や雑誌や新聞を読む人、少ないですよね。

「以前に比べると読んでいる人の数ははっきり減っている。オレも広告のチェックと乗客が何を見ているのかのチェックで忙しいから、本を読む暇なんてない(笑)。あと、夏場になると、サンダルの先から出ているつま先のチェックにも忙しくなるし」

——さすがにつま先フェチですね。

「ヘソにもうるさいけどな。電車の中で雑誌を読まなくなったことも関係して、出版関係の広告が減ってきている。代理店に問い合わせたら、はっきりとは教えてくれなかったけど、やっぱり雑誌の広告の落ちが激しいみたい。『サンデー毎日』など、すでに電車の広告から撤退した雑誌も多い。まして単行本じゃ宣伝する余裕なんてあるはずがなくて、大手がその月に発売になる文庫の広告を出しているくらい。ホームでタバコが吸えなくなってキオスクの売り上げが落ち、ホームのキオスクが減りつつあることも大きい。電車の待ち時間に新聞や雑誌を買っていたのに、今はケータイ。新聞や雑誌はタバコバッシングの風潮に反対すべきだったんだけど、時すでに遅し。オレはずっと反対してきたけどね」

——タバコをやめている時期もタバコバッシングを批判していましたよね。

「そこがオレの偉いところだ。今はまたヘヴィスモーカーだけどな。でも、雑誌が深刻なのは部数の低迷よりも、広告収入の急激な落ちだよね。ここ5年くらいでどこも半減していると言われている。見た目はそれほど落ちてなくても、ダンピングしているから、実収入は半減。『月刊プレイボーイ』の休刊も、部数の低迷と言われていたけど、最後の数年はリニューアルで部数が伸びていて、それより広告収入の減少が大きかったはず。あとは集英社全体の経営悪化のため、赤字部門だった『月プレ』を維持できなくなったってことだと思う。事情はどこの会社も同じで、広告が入る雑誌だった『SPA!』だって、今や表4(*1)に出会い系サイトの広告を出しているくらいで、あれじゃあ、エロ本と一緒」

——週刊誌休刊の噂がいろいろと流れてますね。

「噂が出ていないのは、女性週刊誌と『週刊文春』くらいじゃないか。つまり、他はどこも赤字に転落しているってことだろ。『週刊新潮』は質が転落してきているし」

——広告はインターネットに食われているってことでしょうね。

「雑誌広告減少の最大の理由はそれだろうね。ずっとマツワルでも論じていることだけど、危機的状況は、すべての既存メディアについて言える。本も雑誌も新聞もCDもDVDもすべて売れない。新聞も雑誌もテレビもラジオも広告が入らない。出版は長期低落傾向にあったわけだが、広告についてはインターネットに食われているのが最大の理由で、この不況がさらに拍車をかけている」

——映画業界も派手に見えますけど、厳しいみたいですよ。

「本は一作品当たりの製作費が安くて売り上げも少ない。対して映画は動く金が大きいから宣伝費が使える。そのために派手で景気よく見えるだけ。映画の宣伝が派手に見えるのは、テレビ局が出資しているケースが増えているってこともありそう。放送収入ではやっていけないから、放送外収入を増やすしかなくて、スポンサーのつかない時間帯は映画の宣伝番組で埋めている。テレビ局が出資している映画の宣伝費で番組を作る形になっているから、局としては放送収入を維持しているように見せているけど、実際には表向きの数字以上にテレビは厳しいはず。今はテレビ局がらみの映画がヒットしているからいいようなもので、テレビも相当危うい」

——通販番組も多いですし。

「番組で開発したかのように見せる商品宣伝など、番組内企業タイアップも露骨になってきて、テレビの信頼度は落ちる一方だよね。在京キー局は映画だのDVDだのタイアップだの、放送外収入を稼ぐ余地があるけど、地方局はどこもボロボロ。これも前にマツワルに書いたけど、地方局は『スカパー!』の下請けをやっているケースがあるくらいで。なんて、よその業界の心配をしている場合じゃなくて、出版は流通システム自体が危うくなってきているので、全部が一度に崩壊しかねない」

——なのに、楽しそうですね。

「こういう時こそ新しいことができるチャンスだから。今回、『エロスの原風景』を著者自身がネットで宣伝してどれだけ売れるかを実験しようとしているのも、今の時代だからこそ」

——やっとその話にたどりつきました。

(これからが本題)

*1=印刷用語で、本の裏表紙のこと。

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松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版