『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー10
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
Photo
by Tomoaki Chiba
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
猟奇殺人事件、アンダーグラウンドカルチャーから街娼、さらには世代別のコンドームの捨て方まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ることに。書店、出版社から著者、編集者、読者まで。あらゆる出版関係者に贈ります。
先日の当方主催下ネタ限定お笑いイベント『下-1グランプリ』では審査委員長を務めてくれた松沢氏(写真=千葉朋昭)。
本は返本される。
「雑誌や新聞の書評を期待しても意味がなくなってきているのは、新刊の数が増え過ぎたことも関係している」
——競争が激しくなって書評欄に出にくいわけですね。
「当然それもあるけど、発行点数が増えたために、本が店頭に置かれる期間が短くなっているんだな。本が売れなくなってくると、版元は数を出すことで補填する。売れ部数の見込み分が先払いされる仕組みになっているので、新刊を次々出すことで赤字の清算を先送りできるわけだ。いずれは破綻するんだけど。典型的な自転車操業だよね。こうして新刊点数は膨れ上がっている」
——同じ売り場面積だと、店頭に出せる本の数は一定なのだから、店頭に出ない本が増え続けると。
「売れそうにないものはどんどん返品していかないとさばききれない。大学の時に、街の小さな本屋でバイトして驚いたのは、店頭に出さずに返本する本の多さだった。出しても売れそうにない本はそのまま返本する。本屋の仕事はその選別から始まる。この30年で発行点数は3倍くらいになっているんだから、返本する数を増やし、店頭に出しても引っ込めるペースを早めるしかない。書店の仕事は増えて、売り上げは減っている」
——潰れるわけですね。
「『黒子の部屋』に書いたところだけど、新刊が出ると、必ずと言っていいほど、“書店にない”と文句を言ってくるのがいるんだよね。初刷3,000部の本がその辺の書店にあると思う方がどうかしている。紀伊国屋の支店にだって入荷しないことの方が多くて、入荷したって店頭に出なかったり、入荷した本が売れてそのままになったりする。そういう事情を一般の人たちはまったく理解していなくて驚く」
——だから、僕はアマゾンばっかりですよ。
「売れている本だけ買って満足できる人たちはいいとして、そうじゃない人たちはネットで買うしかない。こういう時代には、時間をかけて本を丁寧に売るなんてことはほとんど不可能。初動で本の売れ行きが決定するので、無駄な部数を作って一気にばらまくという方法をとらざるを得ない。発行点数を減らさない限り、この傾向は止まらない。出版社はバタバタ潰れているから、その分、発行点数は減ってよさそうだけど、実際にはそうなっていない」
——一社当たりの発行点数が増えて、編集者の仕事も増えている。
「ということだ。このことと書評の地位下落は大いに関係している。本の見本刷が上がるのは、通常、発売の1週間前。各編集部に発送して、編集者が本を選んで、ライターに発注して、雑誌に掲載されるのは発売から早くても3週間くらいあと。下手すりゃ2カ後とか3カ月後。以前はそれでもよかったんだよ。本は発売されてから半年は店頭にあったから」
——本の回転が速くなった今は書評が出るのが遅すぎるわけですね。
「本の売れ行きを決定する時期に書評が出ていない。1カ月も経てば、平積みだった本はとっくに棚差しになっていて、それから1冊2册売れたところで平積みには戻らないし、売り切れても注文なんて出してくれない。その間にも大量の新刊が出ているわけで。消費者としても、書評を見て書店に行ってももう遅いんだよ。その点、インターネットだったら、平積みになっているうちに読者の感想が出る。プロの書き手による雑誌の書評より、金を払って読んだ一般読者の感想の方が役に立つ。発売後から数カ月後だとしても、アマゾンだったらすぐに購入できる。この差は大きい。本の濫造が書評の意味をなくしてしまって、消費者をネットに向かわせているわけだ」
——映画だったら公開のタイミング、CDも発売のタイミングでレビューが出るのに。
「映画は公開の2カ月くらい前から試写会が始まるよね。CDも数週間前からサンプルが配布される。ジャケットができてなくても、音が完成した時点でコピーして渡すことも可能だし、生放送だったら、音源を渡した日にオンエアされることもある。印刷物は時間がかかりすぎるんだよ」
——本だって、テキストデータを渡すか、プリントアウトすればいいんじゃないですか。
「実際、そういうこともある。データを渡すと流出する恐れがあるので、避ける編集者が多いと思うけど、ゲラをコピーしたもので書評を書いたことはあるよ。でも、コピーするだけで大変。コピー代が本より高い。バイト料もかかる。かさばるから、読む方だって持ち歩きにくい。そこで、カバーのない白表紙の見本刷を早めに作って配布する出版社もたまにあるんだけど、この方法が定着していないのは、やっぱり書評のためにそこまでやっても効率が悪いんだと思う。たぶんオンデマンド印刷だと思うけど、100部で10万円くらいかかるはず。仕事が増えている編集者としては、そんなことをするんだったら、とっとと仕事を終えて、その経費でおいしいものを食っていた方がいいだろ」
——ええ、まあ(笑)。
「売れている本は広告が出ていて、書評も出ていて、そこで勘違いして、広告や書評が出ている本が売れているようにも見えるけど、実際には、初動を見てから、あるいは増刷が出回る段階になってから広告を出していることも多そうだし、売れているという事実を踏まえて紹介されることも多くて、書評が出たから売れるのではなくて、売れているからメディアが取りあげると言った方が正しいかも」
——売れているということ自体がネタになりますから。
「それで5行稼げるから、ライターも楽。オレだったら、“売れている本は紹介しなくていいだろ”って考えてしまうけど、“売れているから紹介する”って考える書き手の方が多いべ。話題の本とかなんとか言っちゃって。オレは“売れている本は誰かが読んでくれているから、なにもオレが読まなくてもいい”と思って、今現在誰も読んでいない戦前の本を読んでしまうけど、“売れている本は読んでおかないとまずい”って考える人の方がずっと多いからね」
——僕も売れている本は全然読む気がしないですねぇ。最近は無理矢理自分に読ませたりもしますが。
「そういうことを言っているから、オレたちは売れるものを作れないんだな(笑)」
(続く)



