『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー12
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
スカトロ女優、アンダーグラウンドカルチャーから提灯、さらにはセックス・ワーカーまで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ることに。しかし売れる本の話をしていたつもりがいつの間にかアッキーナの話になったのが前回。さて、今回の落としどころは……!?

文中にも登場した松沢氏の著書。『風俗ゼミナール』全5作。ポット出版刊。
再び、書評へ。
「そういえば、深夜のテレビ番組に出ている頃(*1)は自分で自分の本を宣伝していたよ」
——効果はありました?
「『風俗ゼミナール』のシリーズ(*2)を出している頃で、少しは動いたかもしれないけど、はっきりとした効果はなかったんじゃないかな。東京単(*3)だし、ド深夜だったし。まして雑誌じゃ宣伝効果は期待できない。つうか、あのシリーズはほとんど雑誌に取りあげられてない。『風俗ゼミナール』の5冊を通して、雑誌で紹介されたのはのべで10誌くらいじゃなかろうか。全部エロ本だよ。ゲイ雑誌の『パディ』も紹介してくれたな」
——ノンケ向けの風俗本なのに。
「そこは日頃の関係よ。さすがに1冊も売れなかったんじゃないかと思うけど、出たら出たで嬉しい。でも、その嬉しさのために、30冊とか50冊の本をあちこちに送るのは無駄だよね。費用対効果を考えると送らない方がいいってことにならざるを得ない。10冊を売るために50冊を送るのは無駄だべ。パチンコでタバコ1カートンとるために1万円を使うみたいなもんでさ」
——効果がなくても、書評用に送らないわけにもいかないし。
「いや、オレからはほとんど送らなくなった。前はオレのリストだけで、30カ所くらい送っていたけど、今は、確実に出るところと、中に登場する人、協力してくれた人に送るだけ。たいていの場合、10カ所もない。『風俗お作法』は結局リストを渡さなかったし、今回の『『エロスの原風景』は4カ所だけだったよ。あとは出版社が勝手に送っている。それもいらないと思うんだけどね」
——そこまで言いますか。
「しっかりした編集部だと、送られてこなかった本からも選択している。書店で買ったり、編集部に連絡して送ってもらったり。だったら、最初から無闇に送らず、新刊の案内だけメールして、“必要な場合はご一報ください”でいいじゃん。本の原価で考えればたいした金額じゃないけど、大事な商品なんだから、客に売った方がいい。末端価格で言えば、『エロスの原風景』50冊で15万円に近い。送料もかかるんだから、そこで浮いた経費で、皆でおいしいものを食った方がいい」
——おいしいものを食べてばっかりですね。
「送ると期待してしまって失望もする。編集者に送ったら、“面白かったです”とだけ言われて書評に出ないこともあって、“おめえの娯楽のために送ってんじゃねえよ”って気分になる。読みもせずに、ブックオフにもっていくヤツもいるらしいしね。実際、いっぱい送られてくるから、読んでられないわな。オレだって、贈呈本は読まないことがいくらでもある。その事情もわかるから、最近は無駄に送ることをやめている。エコを心がけているからね」
——だったら、最初から本を出さない方がエコのような気もしますけど。
「あのな、それは気づいても言わないのがインタビュアーの心得ってもんだろ」
——失言しました。
「雑誌によっては“プレゼントコーナーだったら掲載できます”って話になるんだけど、何の意味もないと思う。売れそうになくて断裁するしかない本だったらいいけど。プレゼントをすると、買う気だった人まで買わなくなりかねない」
——それでしっかりとした書評を書いてくれるならいいですけどね。
「プレゼントだと50文字くらいの説明と写真だけ。雑誌によっては編集部が買い取ってくれるので、それだったら、どうしてくれてもいいけどさ」
——そこまで効果が落ちていても、まだ出版社は本を送り続けて、雑誌側は書評欄を残しているのはどうしてなんですかね。
「なんとなく(笑)。ルーティンワークに組み込まれたものって、なかなかやめられないもんだよ。雑誌側からすると、本が送られてくるので、タダで読めて嬉しいとか、箸休めのページが欲しいという単純な理由もありそう。あとは、執筆者へのサービスも大きいんじゃないか。雑誌の執筆陣から、“本を出したから紹介して欲しい”と頼まれることも多いので、そういうページを常設した方がやりやすい。それでも載せてくれなかったりするんだけどさ、オレの場合 (笑)。本を出す側としてもそうだよね。出版社は本を売るのが仕事だから、著者に対して、“こういうポップを作りました”“これだけ広告を出しました”ってわかりやすく売っている努力をしていることを示したい。その時に“これだけ書評を稼ぎました”って言えた方がいいってこともあると思う。金をかけず、なおかつ目に見えやすい宣伝はそのくらいしかないから。でも、ワシはそんな気休めはいらん。それよりおいしいものを食わせろ。おいしいものはともかく、その予算で他にできることってあると思う」
——書評に効果がないってここまではっきり言っている人ってあまりいないですよね。
「気づいている編集者はいるよ、当然。オレも書評に効果がほとんどないって話は編集者から教えてもらったんだと思う。そのあと、アマゾンで数字をチェックすると、ゼロではないにしても、なるほど、経費分にも満たないなと。ただ、書評に取りあげられやすい本、取りあげられれば効果が出やすい本もたぶんあるんだと思う」
——どんな本ですか?
「知らない(笑)。でも、書評を担当する人たちが好む本、書評を読むような人が好む本というのがあるんだよ。オレの知らない世界だ。そういうものは別にして、ふたつみっつの書評が出たから売れることなんてあり得ないし、出ないから売れないわけでもない。つうか、何が売れるか何が売れないか、売れた本はなんで売れたのか、正確なことは誰にもわからない」
——何が売れるかわかるんだったら、売れるものだけ出せばいいですからね。
「後づけではなんとでも言える。よくベストセラーになった本の編集者や書店の人が“間違いなく売れると思ってました”なんて言ったりして、“そういうのってわかるんだ、さすがカリスマ店員”なんて感心したりするわけだが、その裏には“間違いなく売れると思ったのに売れなかった本”が何倍もあるはず。言わないだけ。インチキ予言者と一緒で、いろんなことを言っておいて、当たった予言だけ取りあげて、“予言的中”と大々的に騒ぐのと一緒。今現在でいえば、タレント本を出すことだけがもっとも確実に利益を出せる方法じゃねえの。それだってコケているものがいっぱいあるんだろうし」
——売れないタレント本は悲しいです。
「バカ、彼らの本職はタレント業だ。余力で出している本が売れなくても痛くも痒くもない。悲しいのは本職でやっているのに売れないオレたちだ(笑)」
(嗚呼……続く)
*1=近年では日本テレビの『THE NEXT 金曜ロードショー』の出演が記憶に新しいところ。モンドなんでも博士として、ふせえり嬢とともに『映画楽園(シネパラ)』の冒頭で作品に合う珍奇な古本を紹介していた。なぜか和服だった。
*2=全5作。「お客編」、「女の子編」、「女の子編・上級」、「お客編・上級」「60分ロマンス」とある(全てポット出版刊)。
*3=東京のみの放送のことで、テレビ業界や広告業界で使用する用語。「日テレ単」「テレ朝単」といったようにも使用。



