matsuzawa13 of Modern Freaks Web Ver.1.0

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー13

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

メディア論、アンダーグラウンドカルチャーから背骨料理、さらには高橋鐵まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ることに。そして今回は、新刊本と切っても切れない“エロ”について考察する。


摩羅.jpgたしかにそれっぽい装丁の文庫版『魔羅の肖像』(新潮社)。

エロと権威と実用性の話



「まったく同じ商品を複数回買う人はほとんどいないから、本の売れゆきは正確に読めない。チョコやカップ麺や文具やタバコや酒とはそこが違う。CDやDVDもそうだけど、本という商品のおもしろさと難しさだよね」

ーーその点、雑誌は同じ人が繰り返し買うので、数字が読みやすいですね。

「つうことだ。もちろん、単行本も、著者の知名度や実績、類書の実績で、ある程度数字が読めるし、流通の仕組みや定価の高さから、初刷3千部の本がベストセラーになることはほとんどないってこともわかる」

ーー『ハリーポッター』のように、シリーズものもある程度はわかりますね。

『ハリーポッター』は海外の実績と映画との相乗効果もあったから、邦訳の一冊目も売れることはある程度見えていたろうね。しかし、本国でも初版は200部しか作られなかったんだから、最初は誰も売れるなんてわからなかったってことだ」

ーー買っておけばよかったですね。

「うん、初版はすごい値段で売買されている。日本版の版権を取得すればよかったって後悔するんじゃなくて、1冊買っておけばよかったとしか考えないのがオレたちの限界だ(笑)。あとは、ハーレクインロマンスやケータイ小説のように、入れ込む要素やストーリーのパターンに法則があったりするジャンルもあるらしいけど、ノンフィクションではあまりそういう法則を聞かない。あざといタイトルをつけた方がいいといった程度のことはありそうだけど。ただ、長年、エロ関連のものばっかり出していると、さすがにエロについては法則が見えてくるってもんなんだな」

ーー教えてくださいよ。

「エロは世間からバカにされているってことだ」

ーー知ってますよ、そんなことは。

「知ってたか。でも、ヌクためのエロ本だけじゃなく、性に関するもの一般にそうなんだよ。医学の世界でも、マスコミで性に関する発言を積極的にするような人は学会で軽視されると医者が言っていた。医者であろうとも、いい加減なことを言っている人が多いのも事実だが、その内容を問わず軽視される。社会学や文化人類学は別として、歴史学や民俗学でも同様で、今でも性はタブーだと、それぞれの分野の学者先生に教えてもらった。欧米ではセクソロジーという学問が成立しているけど、日本では学会もないし、大学に学科もない。近接している団体は日本性教育協会くらい。ここも存続が危うくなってきているみたいだし」

ーー性教育でさえ遅れているのに。

「雑誌の座談会で声をかけても、性がテーマだとわかると、次々に断わられると編集者がボヤいていたこともある。一度承諾した人も直前に断わってきたり。エロライターのオレが参加するってことで断わる人もいそう」

ーーいやらしいですね。

「そういうもんよ、世の中は。風俗ライターということで、市民グループから排除されたこともあるしな。あっちから呼びかけ人になって欲しいと言ってきたくせに。たぶんフェミニスト勢力からの圧力だろうと推測しているけど、右であれ、左であれ、くだらんヤツらはくだらんということよ」

ーーそういう人たちに限って、裏で何をやっているかわかったもんじゃないっすよ。

「東村山の矢野穂積や朝木直子を筆頭に、清廉潔白なポーズをことさらにしたがる人たちほど本性は真逆だったりする。実態が違うから、そういう虚飾をまといたがるんだろうね。その二重構造は、性に対する表現に対する態度にも顕著に表われて、蔑視、軽視しつつ、多くの人たちは興味津々で、実用性のあるものは売れる。ヌケるというのも実用性のひとつだし、それ自体、ヌケないものでも、『How to 〜(ハウトゥ)』やガイドみたいなものは売りやすい。過去を振り返っても、性に関するベストセラーのほとんどはこういったものだ。『あるす・あまとりあ』『性生活の知恵』『HOW TO SEX』『ジョアンナの愛し方』などなど。今でも語り継がれる『キンゼイ報告』や『マスターズ報告』は話題になっただけで売れたわけではない」

ーー最近だと、『スローセックス』関連が売れましたね。

「くだらなくて途中で読むのをやめたよ。“今までのセックスは間違っている”“あなたのセックスは間違っている”と脅すやり方は、印鑑売りやツボ売りと変わらないべ。多くの人たちが性というジャンルをバカにしつつ、“自分のセックスには欠陥があるんじゃないか”“他の人はもっと気持ちがいいことをしているんじゃないか”と不安で不安でしょうがない。その不安につけ込むものが売れる。と同時に、“これが答えだ”と明言するようなものが求められる。セックスのありように一つの答えしかないなんて発想自体が間違っているのに、世間の人たちはそういうのに弱いんだよね。そんなバカバカしく低俗なテーマに真剣に取り組む気はないから、答えをわかりやすく教えてもらえるものを求める。それが売れる本のひとつのパターン。そんな答えを見せているわけではなく、正解は人によって違うことを強調しているけど、オレの本で言えば『風俗ゼミナール』がハウトゥ的な体裁だよね」

ーーゼミナールというくらいですからね。

「風俗誌の編集者がつけたタイトルで、もともとはそういう意味合いの連載ではなく、単に面白いネタを書いていたんだけど、単行本にする時に、実用性があるかのように見せて、文章もそれふうに直した。読者って、そういう体裁になっていると、そういうものだと思って読むから、事実、役立つものを読んだ気になるんだよね。ここではエロを知り尽くした性豪が上から目線で講釈たれるポーズをした方がいい。見せ方がいかに大事かってことだ。それがうまくいって、『風俗ゼミナール』『エロ街道をゆく』と同じくらい売れて、今年も増刷された。ところが、このシリーズの第5弾では、ハウトゥっぽい体裁に入れにくい原稿を集めて体験編として出して、『60分ロマンス』というタイトルにしたために、見事にコケた。これが一番おもしろかったと思うんだけどな」

ーーたしかにそのタイトルからだと、役に立つ話は期待できないですよね。

「いっそ小説にした方がまだよかったかもしれない。小説だと生々しさが消えるから。どんなに生々しくても所詮ウソだという逃げがある」

ーーエロをテーマにした小説だったら、純文学にだってたくさんありますね。

「しかも、小説自体が権威だから。ノーベル文学賞はあっても、ノーベル・ノンフィクション賞はない。出版界においても、ノンフィクション系のライターより、小説家の方が偉いってことになっている。ウソ話の方が実話より上。だから、バカにされるエロでも、小説の権威をつけると、受け入れられる人たちがいる。エロを入れた小説で売れたものは枚挙にいとまがない」

ーーエロ小説には権威はないですけど、実用性がありますし。

「ノンフィクションのエロだと、知的好奇心を満たすようにものや、想像力を刺激するようなものに興味を示さない人が多い。そもそも性は知的じゃなく、その対局に位置しているから。ただし、この場合は、存在や肩書きに権威のある書き手が書いたものや権威がありそうな体裁だと受け入れられやすい」

ーー医者とか、大学の先生とか。

「オレは存在にも文章にも権威がないから、頼りは実用性だ。それが顕著に出たのが『魔羅の肖像』。文庫を含めると、一番売れたのは『魔羅の肖像』なんだけど、連載は抗議殺到で1年で打ち切られ、その上、単行本化を蹴られて、最初はミニコミで出した」

ーーそこは『ハリーポッター』と同じようなものですね。

「ホントだ。『魔羅の肖像』も200部だったかも。まさか『ハリーポッター』との類似点があるとは思わなかったよ。文庫がそこそこ売れたのは新潮社の力ってことも当然あるんだけど、単行本と違って、文庫ではハウトゥが臭う装丁になっている。好きな装丁ではないけど、そこはさすがだと思った。だから、『エロスの原風景』も『エロ本で5キロ痩せる』ってタイトルにして実用性があるように見せようと思ったんだけどさ(笑)」

ーーそれはさすがに騙されないでしょ。

「エロ本でセンズリこいていれば、少しは痩せんじゃないか(笑)」

ーーそういうことを言うからまた権威がなくなるんですよ。

(続く)

松沢追記:読者からの報告によると、『魔羅の肖像』のミニコミ版は、80部限定だったらしい。

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松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版