『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー14
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
新宿2丁目、アンダーグラウンドカルチャーから盗作問題、さらには“ウンゲロ”まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ってゆく講義に。そして今回はその都合上、普通のライターならあまり言いたがらないというか、そんなことを言ってる同業者は聞いたことのない部類の告白をすることに……。
大好物のカムジャタンの骨を髄までしゃぶる松沢氏。こうしてみると、やはりこの食べ物、けっこうグロい……。
断裁カミング・アウト
「性に関する本については、蔑視、軽視を払拭する実用性と権威が売れ行きを決定するという我が理論から言えば、売れなかった本もだいたい説明ができる。自信作だったのに、『熟女の旅』は全然売れなかった。つっても利益は出したと思うけど、初版を売り切ることができないとは思ってなかった。あの本は権威や実用性があるように見せるのは難しいしな。半分お笑いだから」
ーー早すぎたんじゃないですか。今は熟女ブームが定着しているじゃないですか。
「オレもそうかと思ったんだけど、文庫も見事にコケた。ちょっと前から文庫は品切れになっているけど、あれは断裁したため。アマゾンでは、品切れになると途端に値段がつり上がって、文庫なのに千円以上になっていたりするけど、単行本はその後も全然売れてない。断裁された文庫の中古の方が単行本の中古の何倍もしている不思議さよ」
ーー本はあるうちに買わないとダメですね。
「そういうこと。古本屋を探せば安く売られているだろうけどね。『売る売らないはワタシが決める』は、宮台真司らが参加しているから、権威がある。だから、増刷された。もちろん何事にも例外はあって、風俗店のクーポン券までつけた実用性の高い『亀吉が行く!』は思い切り売れなかった。これも最近品切れになったけど、半分は断裁されている。それでも残りは売れたから、トントンにはなったけど」
ーーけっこう断裁されているんですね。
「おう」
ーー威張らないでください。
「出版社も著者も言いたがらないなか、堂々と断裁されたことを公言するオレは偉いなと思ってさ。現実には、断裁される本は全然珍しくないよ。それか特価本に流されるか」
ーーエロ本もそうですよね。
「それが全国の古本屋に回るわけだ。古本屋に並んでいるエロ本の新本はだいたい特価本だよね。誰も中は見ていない新品。特価本流通の最大手は神保町の八木書店で、そこに行くと、売れ残った本がいろいろ出ていておもしろいよ」
ーーそれは誰でも入れるんでしたっけ?
「一般向けの店舗もあるけど、古本屋のための卸部門があって、そこは小売店しか入れない。タコシェも八木書店を使っているので、前はオレもよく行っていた。卸値がだいたい定価の2割か3割くらい。古本屋はそれを定価の半額から6割くらいで売るわけだ。ものによってはしばらく寝かせて、特価本が市場から消えて以降に、もっと高く売ったりもする。倒産して差し押さえになった本もあって、必ずしも内容がよくないわけではないので。オレが学生の頃は寺山修司の本がよく特価本で売られていたよ。今はプレミアがついている」
ーーへえー。
「“あの会社は資金繰りが厳しい”という噂が出るので、断裁する出版社の方がずっと多いけど、そこそこ大きな出版社や新聞社のものも特価本流通に流れている。版元が流しているんじゃなくて、買い切りの商品を取次や小売りが流しているらしい。さらには、印刷所が横流ししているケースもあると聞く。通常の特価本流通だとバレやすいので、それ専用のルートがあると古本屋さんに聞いた」
ーー多めに刷るんですね。
「たとえば1万部の発注があったら、500部上乗せして刷るわけだ。印刷所は思い切り値段を叩かれているので、そこで帳尻を合わせるんだろうね。あくまで噂話だけど」
ーー出版界にいても、知らないことがいっぱいあるなぁ。
「出版人はプライドが高いので、断裁されたって話さえ表に出にくい。実売の印税だと、断裁されたぶんは二度と金が入ってこないから、著者は当然悲しいけど、倉庫代もかかるし、税金もかかるから、1年で半分売れなければ、ちょっとだけ残してためらいなく断裁するのが正しい。ネット書店で少しは売れるにしても、店頭に出ることはもうないから、売りようがない。そんなもんを売る努力をするんだったら、新刊を出した方がずっといい」
ーー断裁する時は著者に知らせるものなんですか?
「普通は知らされて、著者が買い取ることもある。でも、刷部数で印税を払っていれば問題は生じないし、“オレ様の名作を断裁するなんてとんでもない”とゴネたり、怒ったりする著者もいるので、黙って断裁することもあると聞く。本を断裁するのは文化の軽視だとか、訳のわからんことを言うバカな著者がいるんだよ。だったら、全部買い取って金庫に入れて大事に保存しておけよ。今は本が売れなくなっているのに、大先生気分のままでいる書き手が一番タチが悪くて、刷部数が少ないって文句を言うので、部数を多めに伝えて、その分の印税をそのまま払うって編集者が言っていた」
ーー損するじゃないですか。
「長年の付き合いがあるから、喧嘩をしたくないんだろうし、“もううちから出さなくていいです”とも言えないんだろ。もちろん、これは大手の話ね。中小だったら、そんな余裕はない。売れなくなったので、印税率を下げさせて欲しいと頼んで激怒されたって話も編集者から直接聞いた。こっちは中堅の出版社で、そこでも印税が10%じゃないことがあるのかと、そっちの方が驚いた。そんな書き手にヘコヘコしているから、出版社の赤字が膨らむんだよ。こういう身の程知らずの書き手が著作権の保護期間を70年にしろとか言っているんだろうな。死んで70年もあとに、自分が書いたものを金出して読みたがる人がいるなんてよく思えるよ。著作権の保護期間なんて最長20年で十分。10年でも反対はしない。自意識が異常亢進したたヤツらに合わせる必要はない」
ーーえーと、著作権の話をすると、また話が戻れなくなるので、ここでストップさせてください(笑)。
「君も収拾がつかないオレの話の癖をだんだん理解してきたな(笑)。『亀吉が行く!』が売れなかった理由か。あれは、18禁の雑誌を扱っているような書店で売るべき本で、ポットだとそこに営業しきらなかったためもあると思う」
ーー本はいろんな要素が関わって、出すタイミングでも売れ行きが違ってきそうですよね。
「類書が同時に発売されたために食われることもあれば、書店が並べて売ってくれて、どっちも伸びるってこともありそうだね。なので、売れるかどうかを正確に読み切ることはどこまでも難しくて、売れる本がわかっているのは小泉今日子だけだろ」
ーーなんですか、それ。
「小泉今日子がおもしろいと言うと売れるって伝説みたいな話があったんだよ。それ自体が話題になって、事実、売れたものもあるし。『天声人語』より影響力があったんじゃないか。そこで、オレも『ウンゲロ』を送ったけど、取りあげてくれなかったな(笑)」
ーー大胆ですね。
「当時、よくラジオ番組に呼んでくれていて、面識はあったので。サッカーのカズがまだワールドカップに出る気だった頃の話だ」
ーー今でも出る気ですよ。今だったら誰ですかね。
「オードリーじゃねえか?」
ーーまた適当な思いつきを。もうそろそろ食べられますよ。
「トゥース! どれどれ……うんめー、こりゃいいな」
ーーうまいですね。僕はこれから毎回こっちでいいです。
「……」
ーー……。
「なんだな、カムジャタンはインタビューには向かないな。骨をほじったり、しゃぶったりする作業に忙しくて」
ーーどうしても会話が減ってしまいます。
「……」
ーー……。
(続く)



