matsuzawa15 of Modern Freaks Web Ver.0.9

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー15

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

YouTube、アンダーグラウンドカルチャーから提灯、さらにはカルト芸人まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ってゆく講義に。様々な紆余曲折を経て、いよいよ新刊本の話にカムバック。しかしカムジャタンを食べているため、口数が少なくなったというのが、前回までのお話でした。



shokutyu.jpg64の日に行なわれた『食虫大学』の模様。立教大・野中健一教授(左)に加え、藤田紘一郎(東京医科歯科大学名誉教授、人間総合科学大学教授、寄生虫博士)も参戦する豪華なイベントとなった。右端は食虫というか虫食いでおなじみ佐々木孫悟空。

箔こそすべて!



「……」

ーー……。

「そろそろ少しは話すか」

ーーはい。ゆっくり食べながらやりましょう。

「辛いカムジャタンもいいけど、この方が味がわかりやすいな。今までカムジャタンは辛さが大きな決め手だと思っていたけど、違ってたね。これほどスープがうまいとは思わなかった。幸せだ。でも、辛くないカムジャタンは、この店以外ではできないだろ」

ーーどうしてですか?

「ここのは臭みがまったくないじゃないか。スープを2日、3日と使い回している店だと、辛さとニオイ消しの野菜でごまかすしかないから、辛みがなく、これだけを楽しむってことができないと思うぞ」

ーーなるほど、それはそうかもしれないですね。

「で、なんだっけ」

ーー本をどうやって売るかって話です。

「苦手な話だ。現に売っている人が語るなら説得力があるけど、売れてないオレが語っても説得力のかけらもない」

ーー売れている人がどう売るかを語るのと同じで、売れてない人がどうして売れないのかを語るのも説得力があるんじゃないですか。

「いいことを言うね。傷ついたけど(笑)。オレの論からすると、『エロスの原風景』は売れる要素がどこにもない。当初、ポット出版は初刷1,500部にする予定だった。正しい判断だと思うよ。オールカラーだと、どうしても高くなる。かといって、この本はカラーにしないと誤解される」

ーー誤解?

「古いものはきれいに見せないと、色褪せて見える。戦前のものでもきれいな表紙のものはたくさんある。彩色写真は今のカラー写真とは別の次元できれいなんだよ。絵の美しさにも近い。戦後すぐの時代のカラー印刷も味わいがあって、オレは大好きなんだよ。ちょっと前に、GHQが撮影した戦後すぐのカラー写真集が出て、それには感動したね」

ーーなんて本ですか。

「忘れた。そのあと出版社が潰れたはず。オレが知っている焼け跡時代はモノクロなんだよ。そういう写真しか知らないから、その時代のイメージはすべてモノクロ。でも、現実の風景はきれいなんだ。空が青いんだよ。当たりまえだけど。看板もきれいだし、ネオンもきれい。モノクロ写真とくすんだ時代のイメージがつながっているんだと思うんだけど、うちひしがれながらも活気があったことがやっとあの写真で理解できたようなところがある。ふと気づくと、自分の子どもの時代の写真はモノクロで、イメージもモノクロ。子どもの頃の写真がカラーだった世代、子どもの頃のビデオが残っている世代は、それぞれ過去のイメージがきっと違うんだと思う。そのこともあって、時代を正確に見せるためにカラーにしたかったんだよ。そのためには高くなるのはしょうがない」

ーー高いと文句を言われても。

「わからんヤツはわからなくていいさ。一生、安い文庫を買っていろよ。ヌケる要素のないエロの本で、しかも高いとなれば買う人は1000人もいない。だから、1500部。そうすると、3,800円くらいになってしまって、300部しか売れないものになりかねない。本に関する本は図書館が買ってくれやすくて、書店も好意的に扱ってくれやすいんだけど、この本ではまったく期待できない。書誌データはそれなりに充実しているので、本のマニアは買ってくれそうで、その値段で買ってくれる人の数が300ってことだ。そこで3,000円を切るものにして欲しいと頼んで、結果、2,000部になった。それでも、ほっといたら、500部しか売れない。500部だとさすがにポットも続編は出さない。それで、なんとかして売らなければと奮起したわけよ。実績も権威もないオレが書いた実用性のない本をどれだけ売ることができるのかの実験でもあって、これが売れれば、絶対に売れないと判断して出すのを諦めていた性風俗の歴史ものや街娼のインタビュー集なども出すことが可能になるかもしれない。性風俗関係のマーケットこそ、実用性がないと売れないので、この手のものを売るのはもっと難しくて、『エロスの原風景』が1,500部程度売れたところでなお出せないだろうけど」

ーー松沢さんは、性風俗や性表現については独自のスタンスを確立していると思うんですが、それだけだと権威にはならないんですかね。

「その世界でしか通用しないだろ。最底辺の頂点になったとしても、標準点よりまだ下。蔑視されているジャンルにおいて、最底辺の頂点はもっとも蔑視される存在かもしれないくらいで。エロを論じたいなら、エロに足場を置かない方がいいってことだ。他のジャンルで権威がある人がエロを語るのは受け入れられやすい。存在がエロではないから」

ーーなんだか、イヤな話になってきましたが、今のこの社会では正しいのかもしれない。肩書きが世の中を動かしているっていうのはよくわかります。この間、阿佐ヶ谷のロフトAで、孫悟空さんのライブ(*1)があったじゃないですか。松沢さんは来なかったけど。

「6月4日の虫の日。すごい人だったらしいね」

ーーそうなんですよ。今までロフトプラスワンでやっていた単独ライブだったら、満員になることはないのに、この間は超満員でしたからね。

「テレビでも告知されたんだって?」

ーーらしいですよ。朝日新聞にも出たし。それって、食虫を研究している大学の先生たちが集まったからだと思うんですよ。単なる虫食い芸人だったらメディアは相手にしない。

孫悟空を出すテレビなんてない、自分でも言っているけど」

ーーなのに、××大学のなんとか教授が出るとなると、テレビも新聞も安心して取りあげられる。

「悲しいかな、世の中はそういうもんだよ。研究者も偉いけど、片っ端から生で虫を食っている孫悟空も偉い。しかも、それを芸にして。でも、単体ではテレビにも新聞にも取りあげられない。他にも理由はあるだろうけど、やっぱり箔がないことが大きい。メディアだけの問題ではなくて、テレビや新聞で、虫食い芸人を紹介したら、抗議が来かねない。そこに大学の先生方の名前がついていると、抗議はこない。そういう世の中を踏まえているから、メディアも肩書きを必要とする」

ーーそういうことなんでしょうね。

「そんな世の中なんだから、孫悟空はどんどん権威を利用していけばいいんじゃないかな。元氣安もアート寄りのアプローチを始めている。アートはアートで騙される人たちがたくさんいるから、その方向はいいと思うぞ」

ーー元氣さんは実際にアートですしね。

ハイレッドセンターとか、初期の村上隆とかだってお笑いが入っている。今だとChim↑Pomとか。現代音楽の中にも笑いは入っている。意図して笑いを狙うんじゃなくても、新しい価値観を創出しようと奮闘すると必然的に笑いになる。オレがくだらないことばかり言っているように見えるのは、新しい価値を創出している証だとわかって欲しい(笑)」

(つづく)

*1=『食虫大学』。第1回は立教大学の野中教授との共催。次回は10月を予定とのこと。

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978-4-7808-0126-2.gif

松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版