『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー16
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
お笑い、アンダーグラウンドカルチャーからホタテ貝、さらには女性の性感メカニズムまで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ってゆく講義に。様々な紆余曲折を経て、いよいよ新刊本の話に復帰。そして今回はなんと自らの内側に深く潜っていくといういかにも著者インタビューな展開をみせる! なんか新鮮!!
しゃぶり終わったカムジャタンの骨。慣れてくるとどこにどんな肉、随があるのかがわかるようになる。
嗚呼、箔のない人生
——『エロスの原風景』では、箔のある人の推薦文を帯に入れるとか、解説を書いてもらうって考えなかったんですか?
「あ、しまった、その方法があったな。忘れてたよ(笑)。いつものことなんだけど、理論は完璧なのに、それを現実に落とし込む能力に欠陥があってさ。戦前のものやカストリまではいいとして、ビニ本や自販機本まで取りあげているから、権威のある人たちはことごとく断わるだろうけどね。権威があるってことは、失うものがあるってことだ。名前は伏せるが、著書が多数ある大学教授と会った時に、“君は羨ましい”って言われた。風俗店に平気で行って、チンコを出しながらフィールドワークができるから。あの人たちは調べたくてもなかなか風俗産業には入り込めない。客として行ったとしてもそのことを発表しにくい。権威があるっていうのは不自由なことだよ。推薦文を書いてくれる人がいるとしたら、宮台真司くらいじゃないかな。宮台さんはつくづく偉いよ」
——松沢さんは、大学の講師とか、そういう話って今までなかったんですか?
「ああ、一度、エロ大学エロ本学部変態学科の教授職の話があったけど、忙しくてさ(笑)」
——この調子じゃ無理ですね。今どこかに講師の口があったらやりますか?
「うーん、金になるならやるけど、非常勤講師って全然金にならないからなあ。大学も専門学校も、学校は経営難だから、どんどん条件が悪くなっている。専業にして毎日授業を受け持てば食っていけるだろうけど、週に3コマや4コマやったところで、バイトをしないと食えない。実際、大学の講師をやりながら、バイトをしている人は多いよ。翻訳の仕事ならまだ専門を活かせるとして、夜勤の仕事をしたり、配送の仕事をしたり」
——でも、松沢さんの場合、ライターをしながら続けられるじゃないですか。
「まあね。ただ、授業って、同じ内容を何コマかやらないと無駄なんだよ。準備だけで1日潰れる。課題を出したり、試験をやったら、採点もしなきゃならないし。丸2日潰して6千円もらってもさ。大学の先生から、遊廓の歴史でも、性表現の歴史でも、ふだんオレが書いているようなテーマを論文にすれば、いきなり教授になる道があるって教えてもらって、教授だったらいい給料をもらえるので、生活のために考えないではないけど、10年くらい前に専門学校の講師をやった時につくづくオレは教えることに向いていないってわかった。お笑い芸人としては、どちらかといえばボケじゃろ、オレは。突っ込みもできるけど、相手がいないとおもしろいことを言えないんだよ」
——なんで授業でお笑いをやろうとするんですか。
「そうしないと自分がおもしろくないから。でも、どうしても授業ではうまくいかない。ボケても突っ込んでくれないし、突っ込もうとしてもボケがいないし。オレが授業を受ける側でも、教師はおもしろいことが絶対条件。じゃないと寝る。もともと人に教えてもらうってことが苦手だから、せめておもしろいことを言ってもらわないと。個人と個人の関係で教えてもらうのはいいけど、授業がダメなんだよ」
——今だって中国語教室に行っているじゃないですか。
「あれは少人数だから、自分が納得できないことはとことん聞ける。生徒が10人を超えると寝るかも。他人のペースに合わせることが苦手なのだよ、子どもの頃から今に至るまで。ガキの頃は、春に教科書をもらうと、あっという間に1年分の予習をしていた。とにかく文字を読むことが好きだったから。算数や音楽は別として、他の教科書は最後まで読んでしまって、あとは宿題以外の勉強は一切しない。小学館の学年誌も、ずっと1学年上を定期購読していた」
——なんでですか?
「小学校に入った時に、本屋が間違って配達してきて、そのまま小学校5年までは1学年上。小学6年の時に定期購読をやめるまで、ずっと1学年上のものを読んでいたせいで、学校で習うことはたいてい知っていて、授業はロクに聞いてない。心ここにあらず。ズボンの中に手を入れてチンコをいじっていた(笑)。成績はオール5で、試験はたいてい100点なのに、“授業中に外を見ている”“落ち着きがない”と通信簿にコメントされるわけだ(笑)」
——当時から世の中とズレまくっていたんですね。
「そうそう。でも、遊びはみんなと一緒によくやっていたよ。小中では塾なんて行ったことがなかったから、学校が終わると暗くなるまでずっと遊んでた。小学校5年くらいから神童にも陰りが出てきて、年を経るごとにバカになり、高校の頃には卒業を危ぶまれる劣等生になっていたんだけど、一貫しているのは人と同じことをするのが苦手で、授業が苦手ってことなんだよ。高校3年の時に大学受験のために初めて塾に行ったけど、1学期の半分くらいでさぼるようになって、2学期は1度として行かなかった。当然受験は全部失敗して、浪人の時は最初から予備校は入らなかった。自分で勉強した方がいいことをすでに悟っていたので。もし予備校に行っていたら、ズボンに手を入れてチンコをいじり続けていて、今もまだ大学に入れていないよ、きっと(笑)」
——また長い浪人生活ですね。
「予備校でのあだ名は間違いなく“ヌシ”だな(笑)。“浪人1年や2年の若造には負けない”というのが口癖で、毎年若いヤツらに負けていく(笑)。でも、30年も浪人をしていると、それなりの箔がつく。ヌシと一緒にいると、“ああいう人生もいいのか”というので、浪人生たちの肩の力が抜けて、試験でも緊張しないため、合格率が上がるともっぱらの評判だ」
——どこの評判ですか。
「浪人界(笑)。親御さんたちも“ぜひうちの息子と友だちになってください”って米や野菜をもってくるので、生活には困らない」
——プロなんですか。
「そうそう、プロ浪人生。これは内緒だが、予備校からもギャラが出ている(笑)。こうなると、やすやすと合格するわけにはいかないので、ひたすら授業中はチンコをいじっている。そんな夢のような話はこの辺にしておくとして、自分の子ども時代の話をしたりして、ちょっとインタビューっぽくね?」
——インタビューですから。その性格って協調性がないってことですか。
「うむ、そうとも言える。わがままというよりも、どこまでも人に合わせることができないってことだけど、会社勤めもダメさね。その分、一人でやっていくことに対してはとことん強い。基本が一人だから、孤立も怖くない。今も昔も一人で調べたり考えたりすることは好きで、その方が効率がいい。そんな人間が人に教えるなんてできるはずがなくて、できるとしたらお笑いだろ(笑)」
——飛躍しすぎのような気がしますが、笑いにおいてはピンのR-1じゃなくて、M-1なんですね。
「だから、コンビで講師をやらせてくれるといいんだけどな(笑)。でも、実際のところ、箔のなさ、権威のなさを強く自覚するようになったのは、弱くなったってことなんだよね。若い頃は、バカにされたり、軽視されたりすることをバネにできていたから。だから、わざわざそういう肩書きを選択してきたってことだし。でも、年をとるごとにダメージを受けて、自分の選択に迷いや悔いが出てくるようになってきた。でも、よくよく考えると、やっぱり箔や権威にすがるような人たちに対する腹立ちとか、蔑むところがオレの中にはあるから、どこまでも箔で勝負するようなことはしたくない。そこに抵抗がまったくない人たちもいて、自ら権威のある肩書きを名乗る。正しい処世術だと思うけど、オレはくだらないと思うから、そのくだらなさを自ら表現すべく、チープな肩書きをずっと名乗ってきて、結論を言えば、やっぱり得したことは何もない(笑)。損することばっかり。そうとわかっていても、オレはそういう生き方はできないと思う。仮にそういう肩書きがつけられる立場になったとしても、肩書きはライターでいいよ。エロ本とともに死んでいくまで」
——なんだか、カッコいいですね。
「たまにはカッコつけさせてくれよ、フッ」
(続く)



