『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー17
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
映画、アンダーグラウンドカルチャーから性病、さらには陰謀論まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ってゆく長い長い講義に。様々なサブテキストを経て、いよいよ新刊本の話に復帰したがやはりネットと書評の話に再脱線。というかそっちが本道とも思える展開に……。
あまりに話に出すぎるのでガーナ国旗。カカオとダイヤモンドが名物の西アフリカのサッカー強国。エッシェンとかムンタリとかですね。
他人に期待しなくていい時代
「前々から思っていたんだけど、結局のところ、書評が出るよりも、著者自身がいいものを書くことの方がずっと本の宣伝になる。どこかでおもしろい記事を書けば、読んだ人の何%かは名前を覚えてくれる。その人たちの何%かは、書店に行った時に本を見れば手にしてくれる」
——そりゃそうですね。
「そう思ってきたんだけど、最近はどこも原稿を頼んでくれない」
——あら。
「でも、オレにはインターネットがあるのさ。インターネットが唯一のオレの友だちだ。インターネットによって出版界が危機に追い込まれているのは紛れもない事実だが、だからといって敵視したところでなんの解決にもならない。どう共存するか、どう利用するかを積極的に考える方が前向きだし、事実、共存もできるし、利用もできる。さ、これからが本題だ」
——長かったですねえ、前置きが。今日、ここにくるまでに、携帯で「マツワル」の最新号を読んでいたんですけど、インターネットをどう利用するかという話を書いてましたよね。
「インターネットの意義とか、出版との関係とかを積極的に考えようとしない人が出版界には多くて、だから、Googleブック検索に対して無闇に反対する団体が多い。やっと意義がわかってきて、こっそり方向転換している人たちも多いみたいだけどさ。だったら、最初から少しは調べて、少しは考えてから意思表示すればいいのに、インターネットに対しては敵視から始まる。オレの友だちになんてことを(笑)」
——インターネットがなかったら、松沢さんは死んじゃいますもんね。
「うん。インターネットがなかったら、その分、仕事しちゃうよ」
——してくださいよ、仕事も。
「目の前に利用できるツールがあるのに利用しないで、ただ“本が売れない”と嘆いているような出版関係者は何を考えているのかと心底思う。なぜそうなってしまうのかというのがこのところのテーマなんだけど、“インターネットは世界の何を変えているのか”みたいな話は長いレンジでオレのテーマだし、『マツワル』のテーマでもある。“カムジャタンはなぜこうもうまいか”と同じくらい大事なテーマだ」
——それはまた重大ですね。
「“提灯はなぜここにきて、長年の歴史を覆す形状の変化を起こしているのか”と匹敵するくらいのテーマだ」
——それもまた重大ですね。
「“Skypeでは、昼間、暇な専業主婦からのコンタクトがあると言われているんだけど、なぜオレのところには中国やガーナの女からしかコンタクトがないのか”と同じくらい大事。中国、台湾、韓国はまだわかるとして、なんで、ガーナから次々コンタクトがあるのかと」
——僕のところにも専業主婦からはコンタクトはないですよ。ガーナもないですけど。
「ガーナのスカイパーの間でオレは話題なのかな。本を買ってくんないかな」
——『エロスの原風景』はヴィジュアルが充実しているので、ガーナ人でもそこそこ楽しめるんじゃないですか。
「『日刊ガーナ新聞』は書評を掲載するといいと思うな。あとは、“カツ丼は、米だしトンカツだし、揚げる油も天ぷらとは違っているのに、なぜそば屋のメニューか”と同じくらい大事だと言ってもいい」
——もういいですよ。さっさと話を続けてください。
「インターネットの登場によって、はたと気づけば、もう他人に期待しなくていい時代になってきている。自分の名前を知らしめたいなら、ブログでもなんでも始めればいい。本を宣伝したいなら、そこでやればいい」
——一般の人はそうなんですけど、ライターとか編集者って、かえってハードルが高いところもあります。
「それもわかる。昔から、原稿をタダで書くのは、金を払ってくれている出版社に申し訳ないというので、ノーギャラの原稿依頼を断わっている物書きがいて、よく言えばプロ意識ってことだよね」
——それとはちょっと違いますけど、原稿を書くのが遅いので、プログの更新をしている暇があるなら、原稿を書くべきという人もいます。
「それもわかる。オレ自身、仕事を溜めている時はブログの更新やメルマガの配信を躊躇する。編集者が見たら気分を害するだろうと思って。そう思いつつ、更新したり、配信したりすることもあるけど」
——まぁムカつきますよね。
「すまん」
——わかってくれりゃいいですけど。っていうか、編集者を待たせて、mixiの更新をしている人もいますからね。
「すまん(笑)。オレはSNSに向いてないので、今はほとんどやってないけど。あとは単純に書けない人もいる。プログは誰も催促してくれないから、継続して書くことが難しい。そんな人でもライターをやっているから不思議といえば不思議だけど、文章を書くこと自体が好きなライターって意外に少なくて驚くよ」
——-松沢さんは好きすぎますよ。
「織部型の石灯籠(リンク先の「写真4」)と同じくらい好きだからな」
——-またよくわからない喩えですね。
「オレはタダで原稿を書くこと自体には抵抗がなくて、ミニコミでも書いていたけど、タダで書いた原稿をタダで読まれることには抵抗が長らくあった。どっちにしても自分の文章に対するプライドってことだったりもするんだが、インターネットでは、その辺の小僧たちや小娘たちの文章と並ぶことの抵抗感もあったかもしれない。でも、フリーターでも、コンビニの店員でも、引きこもりでも、高校生でも、自分よりいい文章を書いていること、自分に気づけない視点を提示していることがザラにあって、そういう連中の文章を見るたび、同列で並ぶことの抵抗感はなくなったよね。むしろ、同列であることの快感の方が今は強い」
——-そこは大きな転換ですね。辛いカムジャタンから辛くないカムジャタンに転換するくらいに勇気がいる。
「それほど大袈裟じゃない(笑)。マスコミでは書き手のランクがある。それによって扱いが違う。ギャラも違う。その点、風俗ライター、エロライターは、ライターの中の最底辺だからさ。そういうチープな肩書きにしても、メディアでは肩書きが必要とされる。でも、昔の雑誌を読んでいると、今ほどは肩書きが丁寧につけられていない。いいことをん書いていると、“こいつは誰だよ”って気になるんだけど、不便ではあっても健全だよね。肩書きがなくても、おもしろいものはおもしろい、いいものはいいって判断できていたってことなんだから。箔のある肩書きの人じゃなくても、メディアは取りあげていたわけだし」
——-エロ本の中ではあまり肩書きは関係ないですよね。
「そうだね。実際には医者や教員が原稿を書いていることもあるけど、そんなことは言わないから。だから、居心地がいいというのもある」
——-カメラマンのランクはある程度ありますけど。
「モデルもムチャクチャあるよね。企画か単体か、事務所はどこかで。男優も少しはランクがあるけど、ほとんど変わらないわな」
——SM雑誌の素人モデルでいえば「どこまで耐えられるか」で評価の違いはありますけど、ギャラは違わない。
「“今回はどうしてもケツに腕が入れられる人材が欲しい”ってことがあるけど、プロだからできるってわけでもないからね。ネットでも、肩書きや地位によって重用されたり、知名度で評価されることはあるけど、そういうものに左右されない価値観も同時に存在していて、そこが居心地がいい。匿名にすることもできるし」
(続く)



