『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー18
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
芸能界の薬物汚染、アンダーグラウンドカルチャーからエロCM、さらにはご神体まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ってゆく長い長い講義に。様々なサブテキストを経て、いよいよ新刊本の話に復帰したがやはりネットと書評の話に再脱線。というかそっちが本道とも思える展開に……。
そろそろ忘れてきた頃だと思うので白いカムジャタンの写真を。この料理、普通は赤いものですってよ、奥さん!
ざまあみろという気持ちよさ
「これも前に『マツワル』で論じたように、属性で人を判断することから100%逃れられる人はいない。それは仕方ないことだとして、偉そうな肩書きだからと盲信したり、売れている人だから正しいことを言っていると思い込むのはやめた方がいい。そういうところでしか人を判断できないヤツらが、アムネスティや市川房枝の名前を利用する市議に投票するのだし、実態のないジャーナリストという肩書きのごっこ右翼に騙される。しかし、ネットではそれを批判する人たちもたくさんいて、そんなハッタリがなくても評価されるべきものは評価される」
——芸能人のブログはやっぱり人気がありますけど、無名の書き手でも人気があったりもしますよね。
「東村山の問題についても、もっともアクセスが多くて、評価されているのは3羽の雀さん。“誰だよ、それ”って話だよね。どこの誰なのか、オレ自身、今に至るまでよく知らない。今は知名度も上がって、信頼度も高まっているけど、当初はなんの知名度も権威もない存在だったってことだ。そうなるまでにはそれなりの時間はかかっているけど、この間は1日7万PV(ページビュー)と書いていた」
——よくわからないですけど、すごい数字なんですよね。
「すごいよ。ポット出版のサイトは、出版社別のアクセスランキングによると、30位くらいだったはず。それより多い」
——そんなランキングがあるんですね。
「消えちゃったみたいだけど、以前あったんだよ。正確ではないだろうけど、メドにはなる。そのくらいの順位だと、前後は主婦の友社とか、大きな出版社ばっかり。なんでそうなるかといえば、ほとんどの出版社のサイトは本が出た時くらいしか更新されないから。本のことを調べていると、アマゾンでは情報が足りなくて、出版社のサイトに行くじゃないか」
——行きますね。
「だから、出版社は出版社というだけでアクセス数を稼げるはずなのに、やる気のないサイトが多くて、アマゾン以上の情報がまったく出ていない。本を売る気がないんだよ。編集部日誌みたいなものがあっても、1カ月も2カ月も更新されていない。それでいて、“本が売れない”って嘆いているんだぜ。宝くじを買ってないのに、1億円を何に使うか1日中計算しているオレと変わらないだろ(笑)」
——ウェブサイトは編集部じゃなくて、総務や営業がやっていたり、外部に委託しているので、編集部はわりと無関心だったりもします。
「9割以上の編集部がそうなんじゃないかな。個人でブログをやっている編集者はいても、仕事でそれをやろうとはしないのが不思議」
——本の宣伝をしようとすると、2ちゃんやmixiに書き込んだりしますよね(笑)。
「実際にやっているのがいそう。だったら、自社の死んでいるサイトで何かやればいいのに。出版関係者の中には、ネットに対する軽視と敵視があるんだと思う。当初、出版界はインターネットがこんなに大きくなるとは予想していなくて、軽視していた。あるいは蔑視までしていたかもしれない。出版にはノウハウも信頼もあったんだから、早いうちにネットで何か始めていたら、そっちで食えるようになった出版社もあったはずなんだけど、ほとんどの出版社は見事に乗り遅れて、宣伝媒体としてさえ使えてない。今から5年か6年ほど前に、風俗誌がインターネットに客を奪われて、次々と部数を減らして、廃刊に追い込まれ始めた時に、“これからすべてのジャンルでこういうことが起きる”とオレは言っていたんだが、風俗ライターの言うことを聞くヤツはいないし、風俗誌に学ぶヤツもいないわな」
——見事にその通りになりましたね。
「表現や行動に対する規制もたいていエロから始まる。誰も反対しないから。エロをバカにするヤツはエロに泣く。風俗誌が危機に追い込まれつつあった頃、出版界全体はまだ楽観していて、“本はなくならない”と言っている人も多かった。“なくなりはしないけど、ワシらはたぶん10年後には出版界で食えていないよ”って言ってもリアリティがなかったんだと思う。そのうち、ネットにマーケットを奪われるようになってきて、今度は敵視するようになった。その時代からまだ抜けられていない出版社や個人が多いんだと思う。忙しくてそれどころじゃないってこともあるんだろうけど。出版社の仕事は増え続けているわけだから。それにしたって、本の情報くらいもっと編集者が書けばいいのに、たいていの編集者はそんなところに意識が向かってない。今だったら、ほとんどの編集者がインターネットで調べものをしているはずなんだけど、そこで情報を自ら発信していくという発想につながらない」
——ネットに情報を出すと売れなくなると思っているのもまだいそうですしね。
「いっぱいいるよ。現実には情報を出せば出すほど、本は売れる。情報を出せば出すほど、その本について取りあげるブロガーも増える。ネタを流用すればいいんだからさ。ネットで情報を出せば出すほど、おそらく雑誌の書評も出やすくなる。ライターはその情報をアレンジすれば原稿がいっちょあがり。なのに、出版社がアマゾンの“なか見!検索”をやろうとしても、著者が嫌がるという話も聞く。だったら、書店での立ち読みはどうなるんだって話なんだけど、そこまでは考えないんだろうな。その意識がGoogleブック検索に対するマヌケな姿勢にもつながっていて、そういうことこそネットで調べればいいのにさ。その点、ポットはネット対応が早くて、読物が多い。ブログが登場する前に、書き手に連載をやらせたことがいい結果を生んだ。出版社のサイトでの連載って、金を払っている場合も、払っていない場合も、どっちもあるけど、払っていない場合の問題は書き手がバタバタと倒れていくことだよね」
——出版社が催促できる立場にはないですから。
「ポットのサイトも、死んでいる連載が多いけど、蓄積が多いから、PVは万になる。それでも1日の平均では7万PVにはなっていないはず。7万PVは瞬間風速にしても、それ用のHN(ハンドルネーム)でやっている東村山問題専門ブログなのに、出版社のサイトに匹敵、あるいは凌駕するようになってきている」
——“ポット出版に匹敵する”といってもよくわかりませんけど、“主婦の友社に匹敵”といえば凄そうってことですかね。
「たしかに。人気芸能人のブログは名前で人を集めているだけだからまだまだ甘い。名前を出しているのに、3羽の雀さんにとっくに抜かれているオレはどうなるって話だけどさ」
——抜かれても嬉しいんですか(笑)。
「やっている内容にも賛同できる上に、あそこまでちゃんとやれば支持されるって嬉しいよ。もともと3羽の雀さんは抜きん出て能力が高いんだけど、オレにとっても可能性を見られるんだから嬉しい。既存メディアでは、“ケッ、エロライターかよ”って足蹴にされても、ネットでは支持を集められるかもしれないわけで、出版よりネットに可能性を感じる。よくオレは、“風俗ライター・エロライターは出版界の最底辺”と言っていて、これもずいぶん驕った発言だと自覚はしている。情報の収集と発信を独占してきたメディアの中にはいて、相手にされないなりに自分の意見を言えてきたんだから。今は居場所がほとんどなくなっているにせよ、少なくともこれまでマスコミというカテゴリーの中にはいたわけさ。それが3羽の雀さんに負けるんだから、“ざまあみろ”という気持ちを禁じ得ない」
——さすが言うことがマゾですね。そろそろ、スープが少なくなってきましたよ。スープを追加してもらいますか。
「辛いカムジャタンより、スープが進むね」
——話はなかなか進まないですけど(笑)。
(続く)



