『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー19
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
選挙、現代アートから猟奇殺人事件、さらにはミヤネ屋まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ってゆく長い長い講義に。そしていざ本番というところで当編集部が未曾有の忙殺事態となり更新がおろそかに! 楽しみにしていた方すみません! バックナンバーを見直しつつついてきてください!! 今回は「松沢呉一のあたまの中」的なお話でどうぞ。
こちらは余所(宗家じゃない)のカムジャタン。なんとなく野性味が強そうなのわかりますでしょうか?
松沢式健康ランド論
「オレはスタートが一緒、扱いが一緒ってことが好きなんだよ。だから、貧富の差がなくなる裸が好き。そこに至っても、金で勝負しようとする整形の乳は嫌いだ(笑)。オレは貧富の差のない世界を目指して浅草の健康ランド『まつり湯』の会員になった」
——それは孫悟空さんがレギュラーでやっている司会を観に行くためでしょう。
「そうだったかな」
——今日は孫悟空さんのネタが多いですね。
「さっき会っていたからさ。孫悟空も好きだけど、健康ランドも好きだよ。服を着たって同じ上っ張り。金持ちも貧乏人も一緒。温泉だと、宿泊代によっては決して貧乏人は入れない。安くたって、温泉旅行をするってだけで、金に余裕がある。でも、健康ランドには家がない人も来ているからね。全財産を持ち歩いて、温泉ランドに泊まり来ている日雇いのおっちゃんたちもいる」
——ホテルに泊まることに比べれば安いですかね。
「会員になるか、回数券を買えば、2千円だから、山谷の木賃宿と変わらない。ネットカフェのナイトパックはもっと安いけど、若い世代の健康ランド難民もいるらしい。ネットより風呂を選ぶ気持ちはよくわかる。しかしながら、健康ランドでは、スタートラインが一緒なだけで、そこには激しいバトルがあるわけだ」
——サウナに先に入っている人より自分が先に出ないとか。
「それそれ。学生時代は銭湯で決して負けなかったんだが、サウナではよく負ける。あとは、こいつより金玉がでかいとか。扱いが一緒だから、競争は激化する。最初から勝てるはずのない環境で人は諦める。競争社会が好きだから、スタートラインは一緒であって欲しい。だから、健康ランドが好きなんだよ」
——思いつきをただ並べているわりには説得力がありますね。
「自分でもそう思う(笑)。健康ランドに結びつけたのは思いつきだが、等しい扱いが好きなのも、競争が好きなのも本心。あと、健康ランドでは、打たせ湯を肛門に当てると気持ちいい(笑)」
——また無駄な情報を。いい大人が、打たせ湯を肛門に当てるために四つん這いにならないでくださいよ。
「その話をしたら、孫悟空も“僕もやりました”って言っていたけどな(笑)。かなりの数の人がやっていると思うぞ。ちょうど露天風呂の横にあって、中から見えにくいから、“やってください”って言わんばかりだ」
——やっているのは2人だけだと思います。
「そんなはずはない。1日に5人はやっていると思う。このことを真剣に議論しても得られるものがないので、オレとしても素直に譲らないではないが(笑)、この間も、『黒子の部屋』にアマゾンはどれも扱いが一緒だからこそ、小出版社や知名度のない書き手にはチャンスがあるって話を書いた。
今までは、書店で探したところで、オレの本は小さな書店にない。大きい書店に行ってもない場合が多い。あったとしても、平積みにはならないから、目立たない。全国に1万数千店の書店があって、『エロスの原風景』は初刷2千部だから、そういうことにならざるを得ない。新聞広告だって出ない。テレビやラジオでも取りあげられない。エロ本以外では、書評でも取りあげられない(追記)。多くの人にとっては、存在しないに等しくて、スタートラインから負けが決定している」
——でも、ネットで、エロワードを検索すると、松沢さんの本がひっかかってくると。
「とくにアマゾンの『なか見!検索』でエロワードを入れると、オレの本しかひっかからなかったりする(笑)。アマゾンでも、細かなところでは格差はあるんだけど、大手の大部数の本だからと言って、特別に大きな扱いになるわけではなくて、ここではスタートラインが一緒なんだよ。インターネットではあらゆる場面でそういうことが起きている。YouTubeもそうだよね。政府機関の投稿と中学生のバカ投稿が同じ扱いで並ぶ。あの状態が無性にオレは好きなんだよ。既存メディアに慣れているから、その状態を奇異に感じたり、笑ってしまったりするけど、そちらこそ正しく世界を反映している。政治家や政治評論家は別にして、朝から晩まで政治のことを考えている人はいないわけで、現実の生活ってそういうもんだよね」
——出版の現状を語りながらも、目の前のカムジャタンを気にしている。
「イラン情勢を気にしつつも、今月の家計を気にしている。世界の未来を語ったあとで女をくどく。エアコンの効いた部屋で地球温暖化を心配する。オレの場合はエコに興味がないくせに、夏はエアコンなし、冬は暖房なしだけど(笑)」
——それはエコに関係なく「生活マゾ」だからでしょ。
「そそそ。テレビでも、ニュースのあとでお笑い番組をやっているけど、テレビの価値観に照らし合わせて、とるに足らないもの、金のかかっていないもの、価値のないものは排除している。物理的制約があるから、これはやむを得ないんだが、そこで排除されたものがインターネットでは存在し得る」
——今までは取るに足らないとされていたもの、クズだと思われていたものがやっと存在していいメディアが登場したというのが松沢さんにとってのインターネットの理解なんですね。打たせ湯を肛門に当てる松沢さんや孫悟空さんもいていい場がインターネット。
「初日の出を見てオナニーする元氣安もいていい」
——その辺はインターネットを待たなくても、DVDは出てますけどね。
「うまいこと宣伝を入れたな(笑)。今でも新聞の投書欄には“テレビを観ていると、バカで下品なタレントばかり”なんてことを書いているのがいるじゃないか。そういう記事を出す週刊誌もよくある。でも、テレビはバカと貧乏人のためのメディアになりつつあるんだから、バカでどこがいけないかって話だ」
——松沢さんもこのところテレビばっかり観ているわけですし。
「むちゃくちゃバカだからな。ほっとけよ(笑)。ネットはないと困るけど、テレビはなくても全然困らない。それを前提として、テレビは面白い。バカタレントも面白い。それがイヤならネットを見ろ。小難しい論文だって読めるぞ。今までは選択肢がなくて、誰もができるわけではない認可事業のテレビを批判する正当な根拠があったけど、タダの娯楽の選択肢が出てきてしまった今はその論理は通用しにくい。いつまでテレビを観てんだって話でさ」
——テレビは売り上げが減ってギャラの安いおバカタレントを起用するしかないって事情もありますし。
「バカと貧乏人のためのメディアになりつつあるテレビでも、深夜のドキュメンタリーとか、じっくり観たくなる番組もあって、そういうものを探して観ていけばいいだけで、どうしてゴールデンのバラエティばっかり観てバカだバカだと言っているのか意味がわからん。もちろん、どんなメディアでも批判されていいように、なおテレビは批判されていいんだけど、バカだバカだと言って、自分が賢い気になれる時代は終わっている。そう言っている自分だって、今時、テレビを観ているバカなんだから」
(続く)
*1=これは発売前のインタビューで、発売後は「本の雑誌」「SPA!」「サイゾー」「日刊ゲンダイ」などに取りあげられている。



