『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー21
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
暖簾、中古レコード市場からSM、さらには居酒屋北海道がお贈りする秋のカニ半額フェアーまで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版という産業全体を語ってゆく長い長い講義に。新刊の一人勝ちを夢見る松沢氏が本当は話したくなかったことまでついつい言ってしまいたくもなる出版界の状況というべきか……。
前回の話題にものぼった“カムジャタン後のおじや”。わりとコレ目的の人が多いのだが、私(編集人)的には蛇足。美味いのはわかるけど、それならもう一回肉いこうよ。
宣伝は誰のもの?
——宣伝効果が見えるのがインターネットの強さですよね。
「今は商品のほとんどはネット上で買えるから、行動がストレートだよね。雑誌で見た商品を店まで買いに行くにはいくつもの過程が必要。雑誌からネットに移動するのもワンクッションある。当然そこには時間差が生ずる。となると、どうしても効果が見えにくい。企業が印刷メディアや電波メディアではなく、インターネットに広告を出すようになっているのは当然でさ。動きまでが見えて、分析ができる。どういう広告を出すと、どういう効果があるとわかって、それを踏まえて次のことができる」
——利用時間自体がどんどんネットは増えていて、その分、既存のメディアに使う時間が減っているから、単純に考えても、広告効果が既存メディアは落ちている。
「広告効果があるのに、分析ができにくいため、テレビや雑誌は不利と言う人たちもいるけど、分析をしようと思って、雑誌広告にQRコードをつけたら、アクセス自体がまったくなくて広告をやめたって実話もある(笑)。QRコードをつけたところで印刷物からネットに人を移動させることは難しいって事情もあるにせよ、効果があるのかないのかわからないところで今まで雑誌やテレビの広告は成立していたってことだ」
——よく今までそんなものが成立していましたよね。
「スポンサーとしては、選択肢がなかったんだから、出すしかない。代理店は金に見合う効果なんてないことはとっくにわかっていたとしても、クライアントが金さえ使えばなんだっていいわけだから、そんなことは教えるわけがない。インターネットが出てきて、そっちで金を使わせれば、効果のない媒体は切り捨てってことだろ。それと、効果がゼロってわけでもなくて、特にテレビはそれなりには効果があって、今なお影響力は大きいのは事実。でも、金がかかる。費用対効果で言えば、インターネットの方が効率がいいので、テレビに使う金を減らして、ネットを重視しつつあるってことなんじゃないかな。ネットを使用しない世代が今もいるから、既存メディアを重視せざるを得ないスポンサーもいるし」
——腰痛の薬とか、老人用のオムツとか、入れ歯安定剤とか。
「生命保険とか霊園とか仏壇とか。本も同じで、雑誌はすでに多くが中年メディアか老人メディアだし。週刊誌の平均読者もエロ本の平均読者もすでに40代、下手すりゃ50代。単行本はもう少し若いだろうけど、低落していく出版物を売る方法としても、既存メディアよりインターネットに重きが移動していくのもまた避けられない。でも、これは悪いことばかりではない」
——具体的に言うと。
「本の宣伝は出版社の役割というところもあって、これまで著者は何もしなくてよかったわけ。サイン会に呼ばれたり、雑誌のインタビューを受けたり、自分の連載で触れるくらいで、それ以上のことをやろうにも著者ができる選択肢は少なかった。著者自身が書店回りをするなんて方法もあって、オレも営業担当と回ったことがあるんだけど、勝手なことをやると営業がいやがる。でも、今はネットがある。それでも、オレ自身、これまで本を出した時に、ネットで軽く告知をする程度だった。ところが、ここに来て、いよいよ切羽詰まってきたので、今回の『エロスの原風景』は売っておきたい。売れないと次を出せないってこともあって。ふと気づけば、ネットのおかげで、著者自身ができることはいくらでもある。例えばさ、雑誌の書評は読まないけど、アマゾンのレビューは読む人が今は多いんじゃないかな」
——読みますね。
「その本を買うつもりで見ているから。だったら、もっと出版社は内容がわかる情報を出せばいいのに、ほんの数行しか情報がない。そうすると、レビューだけが頼りになる。ほとんどの出版社は、アマゾンで本を買う時に何が必要かってことを考えてないんだよ。出版社のサイトを見ても、やっぱり十分に情報が出ていない。売る気がないってことだ。これは決して悪いことではない。売る気がある人が売ろうとする努力をすれば、効果が出るってことだし、著者がやればいいってことだから、すべての出版社は今までのまま、ネットで本を売る努力をしないでいてくれた方がありがたい。オレの本さえ売れれば、あとはどうなろうと知ったこっちゃないからさ(笑)」
——今回、松沢さんが、書評には効果がない、それよりネット対策の方が効果が大きいってことをこうも明らかにしてしまったから、真似する人たちも出てくるんじゃないですか。
「そんなことは気づいている人はとっくに気づいているだろうし、やる人ももうやっている。皆がやりだすので、大きな声で言わないだけで。オレは次のことをもう考えているけど、何をするかは内緒だ」
——今回の『エロスの原風景』も、アマゾンの内容が最初はひどかったですね。文字化けしているし、文章の最後が切れているし。
「おめえの元部下の高橋くんがポットでのオレの担当だからな。最初はオレの著書リストが出ていたんだけど、そんなもん、本の紹介で出してもしょうがないべさ。アマゾン内で検索すればすぐに出てくるんだから。しかも、文字化けしているし、切れているし。そこで、目次に差し替えさせた。書店の店頭では中身を見られるけど、アマゾンでは見られない。だったら、できるだけ中身がわかる情報を出すべきなんだけど、高橋くんに限らず、出版社の人たちは、ルーティンワークで作業をやっているから、ひとつひとつの意味を考えなくなってしまう。タイトルと著者と定価と出版社とページ数と判型だけじゃ本は買ってもらえないってことにも気づけない。中身をネットで公開することに抵抗感のある著者が多いという事情もあって、出版社が勝手なことはやりにくいんだけど、オレは、どんどん中身を出せって考えだってわかっているんだから、ためらわず公開してしまえばいいんだよ」
——僕もずっと編集者をやってきて、自分で雑誌を売る発想はなかなか出てこなかったですね。
「編集者はそういうもんだったりする。雑誌と本とは違うし、大きな会社と小さな会社とではやり方も違うので、何年雑誌で仕事をしていたって、ポット出版では、高橋くんはまだド新人だよ」
——僕や高橋くんがいたのって、そんなに大きな会社ですか?
「ワイレア出版だけ見たら小さいかもしれないけど、それでもちょっと前まで十人以上編集者がいたんだし、大洋グループ全体で見たら大きい。自社ビルだぜ。ポットくらいの会社だと、編集者だって、デザイナーだって、書店からの注文の電話を受けなきゃいけない」
——僕もワイレアで、自分の責任で雑誌を出すようになって、売ることを考えるようになって、書店営業してましたけどね。
「そこは福くん個人の偉さ。他の編集者はそんなことをしないだろ」
——営業に任せていても何もしてくれないので、自分でやった方が早いですよ。FAXを送りつけて注文をとることなんてバイトだってできるんだから。
「でも、小さい出版社だったら、そこまでは編集者の仕事としてデフォルトだよ。アマゾンの作業まで編集者がやらなきゃいけない。便所掃除だってしなきゃいけない(笑)」
(続く)



