『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー24
集大成の
エロ本クロニクル。
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録
Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。
メディア論、性科学からフルーツ、さらには地震観測までと、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、大好物の韓国背骨鍋“カムジャタン”を食べながら新刊単行本についての話を伺うつもりが、ここがヘンだよ出版業界!的な長い長い話に。あらゆるメディア論を立て板に水を流すがごとく持論を展開する氏だったが、思わぬところに落とし穴が!! 自著のセールスポイント……そんなに難しいですか……。
トルコ風呂に入る松沢氏の写真を持っていないため、健康ランドの風呂上がりのもので代用。
あったほうがいいもの。
——どうします? このままで追加します? 辛いのを食べます?
「このままでいいだろ」
——(店員に)すいませーん、骨を追加で。
「ジャガイモも」
——(松沢に)でもこのカムジャタンだったら、ジャガイモはいらなくないですか。まぁ僕は辛いカムジャタンでも、ジャガイモいらないですけどね。
「辛さを緩和させる役割としてのジャガイモはいらないね。でも、箸休めの役割はあった方がいいと思うよ。いかに牛肉がおいしくても、すき焼きにシラタキがあった方がいいように、同じものを食べてばかりいると、おいしさが引き立たなくなる」
——僕は骨とスープだけでいいです。
「そういう人もいるけど、オレは雑誌もメルマガもブログもあった方がいい。いずれそれも逆転する可能性があるけど、雑誌の看板がないと、取材しにくいってこともある。それと、メルマガって、異物が入ってきにくいから、つまらないというのもある。狭い世界で完結するよさもあり、つまらなさもあり。ネットでも、SNS、ブログ、掲示板、Twitter、それぞれに特性があって、どれかひとつでいい人もいるし、使い分ける人もいるのと同じで、オレはジャガイモが欲しい」
——しかし今日は女性客しかいないですね。
「骨についた肉をしゃぶる姿は男には見られたくないため、この店はいつも女のグループが多くはあるけれど、今日はオレたち、モテモテだよ」
——実感はないですけどね。
「あと、カムジャタンの女性人気が高いのはカプサイシン効果で痩せるからさ。本当かどうか知らないけど」
——辛くないカムジャタンでは効果が薄くなりますね。
「そうだな。女たちは辛いのを食べているといいよ」
——コラーゲンが肌にもいいし。
「とくにここのは脂肪が抜け切っているので、女性も安心。食い物も本も、そういう実用性が大事ってわけだ」
——その点で、『エロスの原風景』は何の役に立つんですか、5キロ痩せる以外に。
「エロ本に詳しくなる(笑)」
——それはまた実用的ですね(笑)。今回の実売目標は1,500部でしたっけ。
「初刷2,000部のうちの1,500部が売れれば確実に次を出せる。ペイラインは1,200部くらいだと思うけど、それだと利益までは出ないし、次は出せても、その次は出せない。シリーズものはどんどん売れなくなるので。だから、目標は1,500部。たったの1,500部だけど、値段と内容を考えるとそう簡単ではない。さっき“もう本は出さなくてもいい”と言ったけど、あくまでそれは他で十分な収入を得られたらって話。雑誌の仕事がどんどん減っている中、経済効率は悪いけど、本でも出すしかない。それと、本を出さないと、雑誌の原稿依頼もこない」
——本には今も権威がありますからね。
「それもあるし、部数はたいしたことがなくても、印刷物には広い範囲で著者の存在を知らしめる機能がある。雑誌を買って、今まで知らなかった書き手のことを知ったり、興味がなかった書き手に興味をもったりするけど、18禁の雑誌にいくら書いていても、読まない人は決して読まない。でも、エロについて書いた本であっても、雑誌の読者とは別の人たちを引っ張り込める。あと、雑誌の連載は断片だから、まとめて読ませないと、何をやらんとしているのか、理解されにくいというのもある。メルマガを読んでいても、全体像はわかりにくいだろうしね。特に『マツワル』(メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』)はいろんな話が同時進行で進むので。生のデータが延々と続くシリーズもあって、読者は何がしたいのかわからないと思う」
——『マツワル』はバックナンバーが読めないので、途中から読み出しても理解しにくいです。
「書いている方はもちろん全体を見つつやっているけど、時々自分でも何をやりたいのかわからなくなる(笑)。その点、本は、全体が見渡しやすい。そこは本の利点だよね。本はネット対策にもなる。ある人物の名前をネットで検索するとわかるけど、書店、古書店、取次、図書館の書誌データが大量にひっかかる。名前を冠した商品の強さだ。値段がつけられて売られるのは大事なことなんだよ。ネット上においても、本を出すのが自分のプロモーションになるってことだから、ここは権威であろうとなんであろうと利用はする」
——で、『エロスの原風景』のアピールポイントは?
「……」
——だから、また黙らないでくださいよ。
「拡散させることは得意だけど、収束させることは不得手で、本をまとめること自体が嫌いで、興味がないからなあ。自分の原稿を読み直すのも嫌い。中村うさぎもゲラチェックが嫌いで、自分の原稿も、インタビュー原稿もゲラは読まないと言っていた。すっごい気持ちはわかる。気持ちがわかりつつ、間違いがあるといけないので、最低限のチェックはするけど、事実関係の間違いが生じにくい原稿や間違ったところで誰にも迷惑がかからないとか、気づかれさえしないような内容のものはオレもチェックしないことがよくある。雑誌も単行本も、出たものをほとんど読まない。何年もしてから読み直すことはあって、内容を忘れているから、けっこうおもしろかったりする(笑)。未だに出たものを一切読んでいないものもあるよ」
——自分の本に興味がないことを語る時はこんなにも饒舌なのに。自分の本に対する思いって、人によって全然違いそうですね。
「昨年亡くなった漫画家の鴨沢裕仁は何度も読み直すって言っていた。小説家でもそういうタイプの人がいる。一方で、中村うさぎやオレのようなタイプもいて、たぶん何か共通した特性があるんだろうけど、何がどう同じで、何がどう違うのかよくわからない。自分の書いたものを読み直す人は卒業アルバムも繰り返し見たりするのかな」
——じゃあ、質問を変えます。今回の本で、松沢さんが気に入っている章はどれですか?
「オレはなんつっても誰も書いていないかもしれないことを書けた時に喜びを感じるから、他人がおもしろがるかどうかは別にして、トルコ風呂の元祖の話かな。あの本のメインは、エロ本自体の歴史で、その点では本の趣旨とはちょっとズレるんだけどね。何を見ても、トルコ風呂の始まりは『東京温泉』になっているのはおかしいって話。人類の99%にとっては、どうでもいい話だけどさ」
——99.9999%くらいじゃないですかね。
「厳密にはさらに9が三つくらいつく。それを言ったら、この本自体そうだからな。それを言ったら、このインタビューも、オレの存在自体もそうか。人は何故生きているんだろう?」
——エロ本の話の真っ最中に哲学的なこと言わないでください(笑)。
(続く)



