matsuzawa25 of Modern Freaks Web Ver.1.0

いい『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー25

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview & Photo
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

エロの歴史、オカルトから前立腺、さらにはゲロ吐き女優まで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、大好物の韓国背骨鍋“カムジャタン”を食べながら新刊単行本についての話を伺うつもりが、ここがヘンだよ出版業界とオレ!的な長い長い話に。饒舌に出版業界論を展開する氏だったが、自著『エロスの原風景』のセールスポイントを話し出した途端に寡黙に……。ほら、もう少し宣伝しましょうよということで今回の話です。


futon.jpgその他のカムジャタン・シリーズ。東京・西麻布「胡同(フートン)」にて、カムジャタンのスープを確かめる松沢氏。ここの特徴は味というよりはシステム。どんなホルモンや焼肉もカムジャタンに突っ込んでくれます。しかし探せばあるもんだなぁ、カムジャタンの写真。行き過ぎだ。

他のジャンルでは当然とされる仕事。



『エロスの原風景』で一章割いている創文社の雑誌も単発では紹介されているけど、全体像を書いたものはあまりないんじゃないかな。その点では気に入っている。今の時代にオッパイ小僧もまとめて書いたものはあまりないはず。スカトロビニ本、戦前のエロチラシ、地下本のガリ刷りの絵もあまり触れられていないテーマだから、まあまあかな」

——カストリ雑誌の章もおもしろくないですか?

「カストリ雑誌は、過去に何冊かまとめたものが出ているので、オレとしては、そんなにおもしろいとは思ってない。カストリ雑誌自体はおもしろいし、好きだけど、今回入っている原稿は、所詮二番煎じ、三番煎じのダイジェストだよ。ただ、過去に出ていたカストリ雑誌についての本はもう入手が難しいから、知らない人にとってはおもしろいかもね」

——カストリ雑誌は表紙もいいですよね。

「うん。あれを見せるためにはカラーじゃないとさ。『吉原細見』はカラーじゃなくてもよかったし、あれも江戸の研究家がすでにまとめているけど、『吉原細見』を風俗雑誌の元祖として位置づけて、今に繋がったものとして論じたものはあまりないんじゃないかな。名古屋の『きぬふるい』について書いたものも一度として見たことがない。その点では、誰も書いたことがないものかもしれない。明治以降、現在に繋がる風俗ガイドの出版物については、ちょっと前に『東京人』に書いたので、それもいずれは『エロスの原風景』シリーズに収録したいもんだ」

——『変態資料』は?

「『変態資料』はよく知られているので、オレとしてはそんなに意味のある内容じゃない。復刻も出ているんじゃなかったかな。でも、その中身については、他の人が触れていない文章をクローズアップするようにはしている。戦前の実話誌も他の人が取りあげているのは見たことがない。単発でも、『ギャング』とか『裏』のような雑誌を取りあげている人はいないかもしれない。あの辺の雑誌もおもしろいんだけどね。以上」

——……前置きが長かったわりに本題はもう終わりですか。

「自分の本の話は苦手だよ。人の本だったら、自信をもって推薦できるけど、自分の本は自信がない」

——カムジャタンとか、インターネットとかについてだったら自信満々で語るくせに、自分の本に自信がないって……。

「長年辛い思いをしてきたせいで、卑屈になっているんだよ」

——じゃあ、また切り口を変えますが、今回の本の中身に限らず、なんでそうもバカにされがちなエロ本にこだわったんですか。エロ系のライターだからって、歴史にまでこだわる人ってそうはいないじゃないですか。

「いないわけではないけど、書誌的なことまで調べる人はいないよね」

——書誌的なことというと?

「昭和20年代にこういう雑誌が出ていて、そこにこんな記事が出ていたって感じで、記事そのものを取りあげるような人はいる。簡単だから。古本屋で雑誌を探してきて、中の記事を書けばいいだけ。でも、その雑誌を出していたのがどこの出版社で、その出版社は他にどんな雑誌を出していて、その雑誌は何年頃に創刊されて、いつ頃廃刊になって、その頃、出版の状況がどうなっていて、その雑誌はその中でどういう位置づけになるのかって話。雑誌そのもののプロフィールとでもいうべきデータだ」

——ああ、前に『S&Mスナイパー』(ワイレア出版)でやっていた連載でも、そういうデータをよく入れていましたね。

「必ずといっていいくらい入れていた。気にしない人も多いだろうけど、オレが読者の側でも、そういうデータを入れてくれないと気持ちが悪いんだよ。知っている雑誌だったらいいんだけど、知らない雑誌だと、書誌データによって、記事の意味付けが変化してくる。たとえば、今現在でも、人に“こんな記事が出てましたよ”と教えられた時に、どの媒体に出ていたかによって意味が変わってくるじゃないか。新聞といっても、『朝日新聞』なのか、『産経新聞』なのか、『東スポ』なのか、『日刊ゲンダイ』なのかによって、その記事をどうとらえるか違ってくる。あるいは『週刊文春』なのか、『女性セブン』なのか、『週刊実話』なのかによっても違う。ネットであれば、ニュースサイトに出ていたのか、ウィキペディアに出ていたのか、高校生のブログに出ていたのかによっても違う。オレの場合、エロ系の雑誌だったら、タイトルを聞けばだいたい判断はつくけど、エロは完全なウソ記事も多いので、記事だけをピックアップされても、真偽の判断がつかない」

——書誌的なデータまでを含めてエロ本をとらえる人が少ないから、松沢さんがやる余地があるってことだったんですね。

「簡単にいえばそういうこと。城市郎さんが発禁本という切り口で書き続けてきたり、カストリ雑誌をまとめた人がいたりはしても、あるいは書誌的な視点がないまま、個別の記事を取りあげる人はいても、近代のエロ本を見通すような仕事をしている人は意外にいない。やっぱり誰もやっていないことが好きってことだ。でも、オレがエロにおいてやろうとしてきたことは、他のジャンルではとっくにやられていることなんだよね。風俗ライターとしては、店から金をもらわないとか、体験していないのに体験したようなことを書かないとか。風俗嬢の年齢とスリーサイズについては、自己申告のままにするしかないけど(笑)、ウソは書かないとか。歴史を書く場合も、書誌データを添えるとか、一次資料を使うとか、正しく引用するとか、当時のことを知っている人を探すとか。売春を論じるのであれば、実際にそういう仕事をしている人たちの話を聞くとか、現場を見るとか。すべて他のジャンルでは当然とされることをやってきただけだよ」

——そういえば、風俗店からお金をもらっているライターって話、昔は聞きましたね。

「今はほとんどいないと思う。以前はお車代をもらうのが当然だったらしい。テレ朝『トゥナイト2』も店から金をとっていたし(松沢注)。でも、1990年代の半ば以降は、雑誌がライターに厳しく指導するようにもなってくる。それ以降もスポーツ新聞の記者で金を請求してくるのがいると聞いたことがあるけど、今は雑誌やスポーツ新聞に記事が出たところで客が来ないから、店としては金を出す意味がない」

——僕が昔働いていた『S&Mスナイパー』(ワイレア出版)でも、取材先の店が金を出そうとすることがありましたね。

「『S&Mスナイパー』は影響力があったからね。ネットの時代になると、個人のサイトでも力のあるところが出てきて、広告をもらう形で金を受け取るケースがあるかもしれない。個人であっても、広告とわかるようにした上で、広告料をとるのはいいと思うけど。雑誌だって、雑誌単位、出版社単位で、それをやってきたんだから。むしろ他のジャンルの方がひどいともいえる。芸能関係や映画関係、音楽関係では、あごあしつきで取材旅行に行ったり、パーティで高額な土産が出たりするって聞く。でも、エロは叩かれやすいから、身ぎれいにしておかないとさ」

(続く)

松沢注:テレ朝の『トゥナイト2』のスタッフが風俗店に数十万円の金を請求していた話は風俗店に聞いていて、そのことを雑誌で書いたところ、テレ朝のプロデューサーから抗議があった。請求されて断った店から聞いた話だったため、領収書などの証拠がなく、店の人も、テレビ局との関係を考えて、堂々と名乗りを上げてくれるわけでもなく、ここは泣く泣く謝罪を出した。しかし、のちに週刊誌が領収書を入手して記事にしており、番組が終了したのは、この記事のためだったともいわれる。テレビに比べると、エロライターはなんとクリーンなのかと思う。

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松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版