matsuzawa26 of Modern Freaks Web Ver.0.9

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー26

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

世界各国のCM、カルト・レコードから赤線、さらにはウンゲロまで、その無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、大好物の韓国背骨鍋“カムジャタン”を食べながら新刊単行本についての話を伺うつもりが、出版業界の構造を網羅する想定外にためになる長い長い話に。インタビューも後半になると一瞬『エロスの原風景』のセールス・ポイントに触れたもののさっさと切り上げ、今度はエロ文化と日本社会の問題を熱く語り始める松沢氏であった……。ま、『エロスの原風景』夜明け前といった今回です!


uruuranai.jpg久しぶりの著書紹介。松沢氏が中心になって売春否定派の薄い根拠を粉々にした一冊『売る売らないはワタシが決める』(ポット出版)。


放置されているエロのために。


——エロ本はファンタジーを売るところもあるから、すべて本当のことを書くべきかどうかは難しいところがありますよね。

「まあね。ウソ投稿をやっていた雑誌が、本物の投稿の雑誌にリニューアルしたら、途端に部数が落ちたって、その雑誌の編集者が言っていた(笑)。文章はプロが書いた方が妄想をかき立てる。質が落ちても本物を求める人たちもいるだろうけど、いかにもウソであってもきれいなモデルの方がいいっていう読者もいるから、そこはたしかに難しい。盗撮は本当にやったら犯罪だしさ(笑)。トイレのセットまで作ってウソものの盗撮をやることで、本物だと思って喜ぶ人もいれば、そういうウソものをウソものだとわからずに取りあげて、こんなひどいものが売られているって叩く人たちもいるから、そこはどう考えていいのか難しいわな。そこはオレもよく知らないジャンルだから、よく知っている人が結論を出すといいけど、よく知っているテーマで言えば、売春については、叩いている側の方がデタラメすぎる」

——そういう人たちは現場を丹念に見て歩くなんてことをしてないわけですよね。

「まずそんな人はいない。わずかな体験を妄想で解釈して、相手が監禁されていたに違いないと思い込んでいるような人はいるけど。あとは誰かが書いたことを書き写しているだけ。正しく書き写すならいいんだけど、尾ひれをつけて書き写しているケースがよくある。元ネタまでチェックされるとは思わなかったんだろうけど、オレはそこまでチェックするよ(笑)。他のジャンルだったら、検証されるであろうことを前提に書くようなケースでも、デマを書き放題だった。これは売春についての言論を検証して批判する人たちがほとんどいなかったからでもある。古い世代の風俗ライターたちは、売春に反対し、法規制を求める勢力と闘おうなんて根性のあるヤツは皆無だったといっていい、情けないことに。今でも風俗記事を出している雑誌や新聞はほとんどがそうだよね」

——エロ本の読者もそんなことは求めていないですし。

「でも、売防法(売春防止法)以前は少しはいて、梶山季之野坂昭如小沢昭一のように、売防法以降も持論を展開しているのはいたけど、エロ専門の書き手にはほとんどいなかったといっていい。今は少しずつではあれ増えていて、ネット上でも論じている人はいる。ここはオレも貢献できたところかなとは思う」

——ここでも誰もやっていなかったからこそ松沢さんが着手したと。

「いちいちそう考えていたわけではないけれど。売春史について間違いが生じやすいのも、それを批判する人が少ないのも、資料が手に入りにくいことに理由あって、誰かが書いたことを書き写すしかない。他のジャンルだったら、一次資料を重視するのに、エロに関しては、そこまでやる人は極端に少なくなる。その上、今現在入手できる資料は、ほとんどがキリスト教の関連団体の人たちや道徳派フェミニストが書いたものだったりするから、とてつもなく強いフィルターがかかっている。復刻されている資料も、百年前から一貫して売春反対運動をやっている矯風会の発行物だったりする。そうじゃないものもかつては多数出ていたんだけど、図書館にもないから、自分で探すしかない」

——インターネットのなかった時代から、他人に期待せず、自分でやればいいという考えを実践してきたわけですね。

「そうとも言える。たとえば『赤線』という言葉はよく知られているよね」

——戦後の売春地帯ですよね。

「売春地帯というだけなら間違っていないんだけど、正確に定義しているものはほとんどない。試しにネットで検索してみたら、ひとつも正しい定義を書いている人はいなかった。ドラマや映画の舞台になっているのに、赤線でさえも、正しく理解されていないんだよ。たかが半世紀前のことだよ。売春や性風俗だけじゃなくて、エロについては一事が万事その調子で、調べることはいくらでもある。だからおもしろいし、やめられない」

——それで気づいたら、こんなおじさんになっていたんですね(笑)。

「当初は『魔羅の肖像』のように、性科学系の資料を集めていたんだけど、そのうち、戦前の猟奇ものとか変態ものになって、戦後のカストリ(雑誌)になって、さらには時代を問わず、性風俗関係のものになって、という具合にどんどん範囲が広がっていった。そうすると、今度はまたいろんなことが見えてくる。日本人はかつて臍を性的な部位としてとらえていたとか」

——松沢さんの原稿を読んで僕も初めて知りました。

「臍の話も『実話ナックルズ』(ミリオン出版)で書いて、『エロスの原風景』のパート2、パート3が出せれば収録するので、詳しくは省略するけど、古い資料に目を通す作業が『売る売らないはワタシが決める』を作るきっかけにもなった。風俗産業の現実を見ていくことによって、世間一般に言われていることがあまりに頓珍漢で、現実とかけ離れていることがわかってくる。さすがに今は批判されるので、あの人たちもデタラメは書きにくくなったと思うけど、あの本を出した頃はまだソーブ嬢はみんな監禁されて売春を強要されているなんてことを大学の先生が本気で書いていたんだよ。頭がおかしいだろ」

——もしそんなことになっているんだったら、どうして放置しているんですかね。早く逮捕しろって話で。

「不思議だよね。女性の人権だのなんだの言いながら、実のところ、そんなことはちいとも思ってなくて、ソープ嬢たちを利用して、自分たちの立場や思想を強化しようとしているだけなんだよ。本当にソープ嬢たちが監禁されていて、彼女たちのことを少しでも考えているんだったら、放置できるはずがないんだからさ。それが狂信的なキリスト教徒だったらまだわかるよ、所詮宗教だから。でも、それを大学の教員たちが書いている。他のことだったら、最低限のフィールドワークをするのに、このジャンルは妄想を書いていいってことになっている。その現実とともに、歴史の記述も間違いだらけ。一度それをまとめておく必要があると思って出したのが『売る売らないはワタシが決める』で、もともとは自分一人で書こうと思って原稿もできていたんだけど、風俗ライターが出しても説得力がないので、いろんな人に参加してもらった。そのあと、自分一人で書いた続編を出す予定で、ゲラ(試し刷り)までできていたんだけど、飽きた(笑)」

——そんな結末って……。でも売春についての本は、今からでも出す意味があるんじゃないですか。

「現実は何も変わっていないけど、オレの名前で出しても、どうせ相手にされないからさ。ああいう本こそ、権威がないと読んでくれない。それと、その辺のことは、延々とネットに書いていたから、もういいかというのもある。オレの場合、書き終えた瞬間から飽きが始まる。当時のものは全部消しちゃったけど、改めて去年からネットで始めたので、原稿が溜まったら、また改めて出すかもしれない。それもこれも、『エロスの原風景』にかかっている。1年で1,000部も売れなかったら、さすがに続編は無理だし、エロ関係の本はもう出す意欲はなくなるよ。特に風俗関係については、すでに風俗ライターではないので、昔ほどの熱意はない」

——逆に10万部売れたら、今後はなんだって出せますね。

「何言ってんだよ。10万部も売れたら、印税が3千万円近く入ってくるんだから、しばらくは毎日カムジャタンを食って寝て暮らすに決まっているだろ(笑)」

(続く)

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松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版