matsuzawa28 of Modern Freaks Web Ver.1.0

『エロスの原風景』
刊行記念
松沢呉一
インタビュー28

集大成の
エロ本クロニクル。

Interview & Photo
by fukumitutika(Modern Freaks)
2009年6月某日収録






Profile
松沢呉一(まつざわくれいち)
1958年生まれ。ライター。現在は、月刊『実話ナックルズ』(ミリオン出版)、『スナイパーEVE』(ワイレア出版)、『お尻倶楽部』(三和出版)等の媒体に連載中。その他著書として、『風俗お作法』(しょういん)など。自ら有料メルマガ『マッツ・ザ・ワールド』を配信。ちなみに、『エロスの原風景』は『実話ナックルズ』の連載を大幅に修正・加筆して構成したもの。

風俗誌、エロチラシから石灯籠、さらには空間論から語る比較文化論までその無闇とまで思われるほどに広い博識で名を馳せるライターの松沢呉一氏。彼が、日本最大級の各種エログロ誌蒐集家であり、彼が甚大な時間と労力、そして私財を注ぎ込んだコレクションが遂に単行本『エロスの原風景』として好評発売中。その完成を機に、大好物の韓国背骨鍋“カムジャタン”を食べながら新刊単行本についての話を伺うつもりが、まずは出版業界の構造を網羅する長い長い話に。そしてインタビューも後半になると一瞬『エロスの原風景』のセールス・ポイントに触れたものの、そこは脱線上手の松沢氏、さっさと切り上げて今度はエロ文化と日本社会の問題を熱く語り始める。そして、なぜ松沢氏が『エロスの原風景』を執筆するような人生を歩むことになったのか、その根源が明らかにされる。




gidayu.jpg9月30日に行なわれた『T-1グランプリ』の優勝者はグレート義太夫氏。糖尿病患者としてその恐ろしさをリアル過ぎる漫談調で披露。映画監督・川崎実氏、UMA研究家・天野ミチヒロ氏という猛者を抑えてのナイス優勝。主催のなべやかん氏からトロフィーを受け取る。次回のチャンピオン大会に出場決定。

打ち捨てられたクズの歴史。


「地方で出版されたカストリ雑誌の話は今回の本に入れてないけど、『実話ナックルズ』(ミリオン出版)の連載ではもう書いたので、たぶん『エロスの原風景』のパート2かパート3には入る予定。それもこれも第一弾が売れるかどうかにかかっているわけだ。地方で大量に出ていたことまでは、カストリ雑誌の研究をやっている人たちも触れているだろうけど、その再現といっていいエロのタウン誌現象がここ何年か地方都市で起きていた」

——エロのタウン誌なんて出てましたっけ?

「すでにピークは終わったけど、出ていたんだよ。風俗誌だ」

——なるほど。松沢さんも四国の風俗誌で仕事をしていましたよね。

『Ping(ピン)』ね。去年連載が終わっちゃったけど、『風俗ゼミナール』を長年連載していた雑誌だ。風俗雑誌が乱立したのは、デリヘルが合法になったため。『Ping(ピン)』編集部のある松山が顕著だけど、需要に比して、店舗型の風俗店が規制されて数が少なかったんだよ。道後温泉にソープ街はあったけど、市の中心部にはほとんど何もなかったわけさ。地味なピンサロが細々と営業していたくらい。ところが、無店舗型が合法になったのを契機に、デリヘルが続々できて、それらが雑誌のスポンサーになって、風俗誌が成立するようになったんだな。これによって、道後温泉のソープ街も活気づいて、新たに店舗型ヘルスが次々オープンした。あの場所は新規の許可を得られるので。宣伝メディアができたために、新規オープンもやりやすくなって、またスポンサーが増える。こういうことが全国で起きて、今まで風俗誌に無縁だった場所でも発刊が相次いで、名古屋ではSMの専門誌も出ていた。同人誌みたいなものを除くと、地方のSM誌は初めてじゃないかな。これも出張のSMクラブや、SMコースを設置したデリが増えたことが大きい」

——今も出ているんですか?

「いや、数号で潰れたはず。地方の風俗誌はまだ出ているのがあるけど、半分以上はもう消えたと思う。東京と一緒で、インターネットに食われた。客向けの情報誌だけじゃなく、風俗求人誌も全国で乱立したけど、規制が入った地域が多いので、こちらもすでにピークは過ぎている。東京ではまだ4誌か5誌、無料の求人誌出ていると思うけど、東京もそろそろ危ない」

——よくそういう無料の求人誌を松沢さんは持ち帰ってますよね。

「風俗嬢としてデビューしようかと思ってさ(笑)。これものちには貴重な資料になるんだよ。東京ではあまり見かけなくなったけど、ホテトルのチラシもずっと集めている。こういうことが大事なのだよ。カストリ雑誌を研究している人は大学の中にもいるけど、今の時代の風俗誌までチェックして、ホテトルのチラシまで集めている人はいないだろうから、半世紀ちょっと前のエロのタウン誌の時代が、短い期間ながら、今の時代に再現されたことは知らないだろうね。それを重ねて見られるのが、エロライターの特性よ」

——『エロスの原風景』には、印刷史の話も出てきますよね。

「たまたまだけど、コロタイプの話やグラビア印刷の話がいくつか出てくる。当たりまえといえば当たりまえで、エロ本は印刷史とともに歩んでいるわけだ。日本の美術は江戸期の浮世絵がなんといっても知られるわけだが、これは木版。高度な木版技術で、チンコやマンコを丸出しにした春画を刷っていた。木版の春画は明治時代まで続いて、彫師や刷師が絶えることで江戸時代からの流れの木版の春画も消えるわけだが、明治に入ると、造化機論といわれる性学書で、銅版画による精密な性器画が出てくる。なんて話は今も『ナックルズ』で続けているので、詳しくは省略するけど、よく言われるように、新しい技術、新しいツールは、エロとともに発展、普及する」

——たしか、ビデオデッキも『洗濯屋ケンちゃん』とともに普及したんですよね。

「写真だって、発明されて間もなくヌード写真が撮れられていたし、『エロスの原風景』に出ているように、孔版画も地下本で発展した。ダイヤルQ2もそうだよね。エロを見ていくことで歴史がわかる。岩波書店の『世界』をずっと読んでいけば、日本の戦後史が見えてくる。しかし、庶民の暮らしぶりはわからない。印刷史のこともあんまりわからない。岩波あたりは紙の入手にさほど苦労しかなったかもしれず、仙花紙を苦労して入手した人たちのこともわかりにくい。どこの赤線にどんな女がいたか、どこの通りにどんなパンパンがいたのかもわからない。『改造』は一度パンパンの特集を組んでいるけど、『世界』は一度もそういった特集を組んだことがないと思う」

——なんだか、インターネットにはクズがあるから世界が見えるという話に繋がってきますね。

「その通り。古いエロ本を読み直すことで、打ち捨てられた歴史が見えてくるんだよ。計算したかのように、話がうまく繋がっているだろ」

——思いつきなのに。

「いや、こう見えて、オレのやっていること、言っていることは一貫しているんだよ。『世界』が記述する歴史も大事だけど、打ち捨てられたクズにも歴史があって、その歴史を知りたくて、オレはエロ本をずっと集めてきた。誰もが見ているものを見ていたら、誰もが見えるものしか見えない。オレがここ数年熱中している提灯や暖簾からも世界が見える。なぜ暖簾は日本にしかないのか。韓国にも室内用の暖簾はあって、こういう仕切りは海外にもあるけど、屋号や家紋、商品名が入った看板暖簾があるのはオレの知る限り日本だけ。欧米だと、フラッグという形になって、暖簾には日本人独特の空間に対する観念が表現されている」

——松沢さんお得意の空間論ですね。

「文化の違いって、形になって見えるもので語られがちだけど、実は人と人の関係や私と他人の関係だったり、私的領域と公的領域の境界線や、世界と国と社会と個人の位置づけの捉え方に文化が表われやすくて、しばしばこっちの方が重要な意味を持っている。ここを理解しないと、文化が違う人たちの行動を見て、ルールを守れない人たち、図々しい人たちとしか思えなくて、それが排外主義にもなっていく。でも、ルールがないのでなく、ルールのありようが違う。だから、相手にとっても、こっちこそがルールがない人たちに見える。互いに互いのルールを見据えていけば、トラブルは回避できる。そういうことがインターネットでは簡単に見えてくるので、オレみたいな人間にはおもしろくてしょうがない。インターネットが登場する前だったら、データを集めるのに、膨大な時間や手間か金がかかったのに、今は同じ程度に意味のあるデータを1日で集められたりする。この話をすると、1時間くらい戻れなくなるけど、やめた方がいい?」

——はい、やめてください。店が終わってしまいますので。

「クソ」

(次回は最終回)

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松沢呉一『エロスの原風景』
江戸時代〜昭和50年代後半のエロ出版史 

定価=2,800+税
ISBN978-4-7808-0126-2 C0095
A5判 / 168ページ / 上製・函入り
2009年07月刊行
ポット出版