Ting-Maya of Modern Freaks Web Ver.1.0

ティン&
マヤ・マイ
インタビュー02

ふたりの
台湾人女性と
S&M

Photo by Yasuji Watanabe
Text(Interview)
by Mitutika Fukuda
2010年4月某日収録






Profile
マヤ・マイ(Maya Mai) [ch0]
台湾初のSMサイト『被縄愉虐邦』を運営する台湾人ミストレス。18歳からヌードモデルとポールダンサーのキャリアをスタートし現在に至る 。女王様の他に撮影会のオーガナイザーやイベント運営も。好奇心旺盛、SもMも、両方できる。縛り、流血、痛みが特に好き。「『できないことはない』をモットーに頑張って生きています」。


Profile
渡邊安治(わたなべやすじ)
<アブノーマル、そしてエロティックな表現を斜めに思考するフォト・シークエンス>を標榜しつつ2000年から写真家活動。著書に『Tokyo Girls』『AKAI HANA』など。元『S&Mスナイパー』編集人で福田の元上司。

英語で会話したティン嬢から一転、流暢な日本語で語るマヤ・マイ嬢。「食べ物おいしいし、服も綺麗だし、着物も好き」その言葉だけをとれば、もの凄くノーマルな親日家発言だが、騙されてはいけない。彼女こそ、日本の変態性、マニアックスを全てその小さな体に宿したような存在なのだから。

ting&maya02.jpgティン(Ting)嬢(写真左)とマヤ・マイ(Maya Mai)嬢。

誰もやったことがないから、かなぁ


――台湾に女王様の同業者はいますか?

「いますよ。でも、少ないですね」

――台湾全体で何人くらいいますか?

「わからない(笑)。私は台北に住んでいて、そこで友達と2人で活動しています」

――それは日本のSMクラブのようなものですか?

「クラブはないです。みんな個人で女王様をやっていますね」

――ところで、マゾヒストという層が、台湾でも認知されているんですか?

「そんなにはいないですが、少しの愛好家はいます。SやMにかかわらず、お客さんのやりたいことをやっている感じです。でも私のお客さんはやっぱり外国人、アメリカとかフランスの人が多いですね。私のサイトが英語版もあるのはそのためです」

 彼女は台湾初のSMサイト『被縄愉虐邦(*1)』を立ち上げ、その運営もしているという。
 個人的な雑感として、中国と台湾の関係から、SMという行為自体が台湾国内で違法だと思っていたのだが、サイト運営もできているし、絶対的なタブーではないのかもしれない。しかしサイトを見ると、小説等の文字コンテンツが中心であり、小さく載せられた写真が拡大できないことからも、台湾でSMを発信してゆくことへの緊張感は伝わってくる。何より、サイトのサブタイトルには《私たちは手錠と足枷をを外して、異常な快楽を求める!》というけたたましい文言が躍っている。

――台湾で公にSM趣味を公にしていると違法になるのですか?

「たぶん、プライベートでは大丈夫ですね。それは警察も知りようがないから。でも商売はダメでしょうね」

 となるとどこまでが合法かが知りたくなるのが人情。
——ところで、台湾に日本でいう“アダルトビデオ”のようなものはありますか?

「少しありますが、日本でやっているようなセックスシーンそのものを撮ると3カ月は牢屋行きですね。SMも、もちろんダメでしょう」

――では台湾人のあなたにどうやってSMの情報が届いたのですか?

「ちょっと恥ずかしいんだけど、小さな頃、小学校2~3年生の時、家にSMの本がいっぱいあるのを発見したんです。たぶん、姉のもの(笑)。『うわ、なにこれ!?』って思って見たんですが、凄く興奮したんです。ほとんどの雑誌とビデオは日本のものでしたね。だから日本が大好きで、SMのために日本語も覚えました。日本のSMサークルやSMパーティに行って緊縛も覚えました」

――今回、Tingさんとショーをしていますが、あなたはレズビアンなのですか?

「私、男も好き、女も好き(笑)。台湾にはホモもレズもカミングアウトしてる人がたくさんいます。だから、台湾にSMバーはないけれど、ホモバー、レズバーならたくさんあります。台北にも台中にも」

 そんな性に開放的な世代の代表として、彼女はSMの仕事を始めた。あくまで日本のSM業界をモデルにしたかったが、中国圏のお国柄、最初からそううまくはいかなかったようだ。

「元々はポールダンサーをしていましたが、どうしてもSMの店を始めたいと思って、台北でSM珈琲屋を始めました。でもしばらくして警察に取り締まられ閉店してしまいました。開店初日にいきなり警察が来たけど、知らんふりして隠しながらSMバーみたいなことを続けていたのですが……」

――ちなみに、なんていう店名で……?

「『SMスペース』(笑)」

――全然隠す気ないですね(笑)。

「たぶんその件でこの仕事が親にもバレてしまいました(笑)。でも、もともと隠す気もなかったんです。以前もテレビのニュースにSMパフォーマーとして出たり、コンビニで売っている普通の雑誌にも女王様として出たことがあるし、日本のパフォーマーを台湾に呼んで台湾初のSMショーをやったりもしてますし。これからやりたいのはSMバーなんですけど、危ないからなぁ。台湾は珈琲屋でも危ないくらいだから(笑)」

 別に珈琲屋が危ないわけではないが(笑)、彼女はSMの他に、もうひとつ日本から持ち帰ったものがある。それは『身体改造』だ。

01.jpgルーカス・スピラのカッティング施術中のマヤ・マイ嬢。
02.jpg施術完了後の背中。デザインは彼女の自前。
 実はこの日の取材前、筆者はマヤ・マイ嬢と会ったことがあり、それは東京の老舗アングラ・イベント『デパートメントH』で身体改造、ボディ・モディフィケーションの取材をしていた時だった。彼女は医療用メスの魔術師ことルーカス・スピラによるカッティング(*2)施術を受けていたのだ。その時は台湾人の身体改造マニアだった彼女は、実のところ「台湾人の女王様」だったという話だ。その日はカッティングの他に、ボディ・サスペンションも日本で初体験。彼女がそこに惹かれた背景としては、現在、台湾の出版社が日本の雑誌『タトゥーバースト』コアマガジン刊)の中国語版を出版していることも大きいのだろう。こういった日本独自のアンダーグラウンド系カルチャーは、欧米のみならず、アジアへも急速に拡散していっている真っ最中なのだ。

「台湾で身体改造は、そんなには盛んではないです。ピアスとタトゥーくらいかなぁ」

 だが、そんな環境の台湾で、彼女はなんと、股間に針を突き刺してのボディサスペンション(*3)に挑戦している。そんな話は、どこでも聞いたことがない。

maya04.jpgmaya03.jpgちょっとエログロい写真提供=ご本人。
――しかし、なぜ股間で? そんな人は日本にも欧米にもいませんが。

「うーん……誰もやったことがないから、かなぁ」

 さらに驚くことに、その時、彼女は一度のサスペンション経験もなかったという。この無謀なほどに貪欲な姿勢は、最近の日本人からは到底拝めない力強さに映った。感覚的に言い換えれば、サブカル創世記の日本のような無分別な力強さ、か。
 話を彼女に戻すと、女王様というよりはむしろ変態、全方位的な快楽主義者に近いのかもしれない。実際、日本のSMマニアにはノーマルのセックスを蔑視、嫌悪している風潮もあるのだが、マヤ・マイ嬢にはそんな気配は微塵もない。未知の身体文化ならなんでも体に取り込み、良いものは自国へと持ち帰るだけ。それらの文化が一見ダークな分野であることを忘れてしまうほどに、彼女の精神状態は極めて健全、メジャーリーガーの日本復帰のようだ。
 そしてこのインタビューから1年、彼女は日本に住んでいる。たくさんの日本人と関係を持ち、SMも浴びるほどに経験した。
「最初は、ビックリしてたけど……もうSMはフツーね(笑)」
 ただの日本通には言えない、ただの日本人には言えない、不思議な説得力が彼女にはある。

(おわり)

*1=「縛られ虐められることの悦びを知る者の国」という意味。
*2=肌にメスで画を描き、その傷跡で模様を残す身体改造施術の一種。
*3=フックを肌に刺して宙に浮かぶパフォーマンス。通常は背中で吊ることが多い。